『mauleaf 34号』編集メンバーインタビュー vol.6「食べるために生きるな、生きるために食べろ」
web版mauleafでは、メンバー同士でインタビューし合い、ともに冊子をつくる仲間を紹介します。今回の話し手は、クリエイティブイノベーション学科(以下、「CI学科」)で学ぶ小原叶夢さん。お互い初めてのインタビューの緊張を和らげようと、ムサビ16号館のキッチンスペースで一緒にパスタをつくって食べながらインタビューしました!
◎話し手:小原 叶夢(クリエイティブイノベーション学科1年)
◯聞き手:阿世比丸 花穂(工芸工業デザイン学科3年)

与えられた課題をこなすだけのデザインへの違和感
─小原さんはムサビに入学する前に専門学校に通っていたということですが、専門学校ではどんなことをしていたのでしょうか?
3年制の専門学校のビジュアルデザイン科に通っていました。そこではグラフィックデザインに加えて、映像、Web、アプリ、少しだけプロダクトデザインもやるという感じで、あらゆる領域の基礎的な知識を学びました。

─そこから、なぜムサビのCI学科に進もうと思ったのですか?
一番のきっかけは、考える仕事に就きたいと思ったことです。専門学校の制作は基本的に1から100まで個人ワークで、就職するための作品づくりに追われる日々でした。私も実際に就活をして内定をいただいたのですが、このまま就職しても同じようにひたすら手を動かして働き続けるしかないような気がして。
デザインってよく、課題を解決することと言われますが、用意された課題をどう処理するかだけでなく、そもそも何が課題なのかという、もっと手前の部分を考えることがしたいと思うようになったんです。
─代理店などに指示されたことをただやるだけの仕事ではなく、根本の課題に対して主体的に関わりたいと。
そうですね。そのまま就職したくないなと悩んでいたとき、ムサビにCIという面白い学科があることを知って調べたら、直感的に「楽しそう!」と思ったんです。
─ CI学科というと、ホワイトボードや木製ボードにみんなで意見を書き殴って議論しているイメージがありますが、実際にはどんな授業をしているんですか?
とにかくグループワークが多くて、しかも答えのない課題ばかり出されます。入学して最初の授業で出された課題は、「都市との接続点」でした。
─初っ端から抽象的ですね……!
どうぞグループワークしてください、と丸投げされるんです(笑)。都市との接続点って何?という定義から自分たちで考えなきゃいけない。「この製品を売るためのポスターを作りなさい」みたいな明確な課題ではないのでアバウトで大変ですけど、それこそが私のやりたかったことでした。

モラトリアムの延長線上で
─実は私たちって同い年なんですよね。私は1年浪人して今この大学の3年生だけど、小原さんは専門学校に3年通ってから今年ムサビに入学したので、大学では1年生。ストレートで進学した地元の友達とかはもう就活も終わりかけている年だから、お互い焦る瞬間ってありますよね。
そうなんですよね。正直、やりたいことのために大学へ入り直したものの、私の中ではモラトリアムの延長を過ごしているような感覚もあって、常に焦る気持ちはあります。一度内定を辞退しているので、あの会社よりも良いところに入らなきゃいけないとか、周りよりもお金と時間をかけている分、絶対に無駄にできないというプレッシャーは常にありますね。
─忙しい中で、自分の時間を保つための息抜きや、大切にしているものはありますか?
一番好きなエンタメはラジオです。『オードリーのオールナイトニッポン』を毎週聴いていて、これが今の心のよりどころですね。一人暮らしの部屋で洗い物をしているときや、CIの課題で行き詰まってボーッと考えているときに、小さな音で流しています。

─課題で行き詰まったとき、どうやって乗り越えているんですか?
自分の中でずっと大切にしているソクラテスの言葉があって、「食べるために生きるな、生きるために食べろ」という言葉。すごく好きなんです。
─「目的と手段を履き違えるな」という意味ですね。
はい。何かに悩んだとき、私の人生の目的は自分が幸せになることであって、今やっていることはそのためのただの手段でしかないと考えるようにしています。美大の課題で詰まってもう嫌だ!となったときも、これが私の人生のすべてじゃないって思えるんです。幸せになるためにここに入ったのだから、もしこれがダメなら別の手段を考えればいい。課題や嫌なことに自分のすべてを支配されたくないので、その言葉を軸にしています。
挫折の経験が、自分軸を作ってくれた
─自分軸を持てるようになったのは、何かきっかけがあったのですか?
実は中学1年生のときに大きな病気をして、1年間ずっと入院していたんです。2年生から復帰して、ものすごく猛勉強して、通える範囲で一番偏差値の高い高校に入学しました。でも、入学後にまた体調を崩してしまって、結局、通信制の高校に転校せざるを得なくなってしまったんです。
─努力して掴んだものが、体調のせいで崩れてしまったのは辛い経験でしたね。
当時は、勉強して賢くなることだけを信じていたので、こんなにあっけなく崩れてしまうんだと絶望しました。もしそのまま良い大学に行って大企業に入ったとしても、その会社は「オハラカナメ」という人間ではなく、偏差値65のスペックを求めているだけなんじゃないか、と感じるようになって。
そんなとき、通信制高校で出会った美術部の友達が、純粋に好きな絵と向き合っている姿がすごくキラキラして見えたんです。この子じゃなきゃいけないという生き方をしていて、羨ましかった。そこから、私も偏差値の高い大学を目指すのをやめて、美術やデザインの道に進もうと方向転換しました。
─その紆余曲折があったからこそ、今の「生きるために食べる」という考え方に繋がっているんですね。
そうですね。当時は高校に行くことや専門学校で就職すること自体が目的になってしまって、自分の首を絞めていました。でも色々あったからこそ、今は学校もバイトも友達と遊ぶことも、すべて自分の人生を豊かにするための一つのセクションだと思える。ようやく自分軸で楽しく生きられるようになりました。

未来のゴールはあえて作らない
─CI学科での学びは、これからの将来にどう繋がっていきそうですか?
CI学科は地域おこし協力隊など、地方に行く先輩も多いんです。私も地方には興味があります。都心だと自分の替えが利くような気がしてしまうので、私を求めてくれる場所に行きたいなという気持ちはあります。
ただ、将来についてはあえて細かく考えないようにしています。
─あえて、ですか?
ゴールを明確に決めてしまうと、またそのゴールを達成すること自体が目的になって、自分の可能性を狭めてしまう気がするんです。こうなるかもしれないし、ああなるかもしれないくらいにしておきたい。自分の軸さえぶれなければ、きっとどこに行っても幸せに生きていけると思っているので。
─なるほど。まさに「生きるために食べる」という姿勢が将来の考え方にも一貫して現れているんですね。この言葉通り、一緒に食べたジェノベーゼパスタも明日からまた元気に生きられそうなくらい美味しかったです!
本日は素敵なお話をありがとうございました!
執筆・編集:工芸工業デザイン学科3年 阿世比丸花穂









