2022-10-12

「うつわと和菓子」の学外展示、「とらや」とのコラボによる学び

2022年5月16日(月)から5月21日(土)に学内で、6月17日(金)から6月19日(日)に築地本願寺インフォメーションセンター受付前にて、工芸工業デザイン学科陶磁専攻の学生12名による「うつわと和菓子」という展示が行われました。この展示では、学生が老舗和菓子店「とらや」の歴史や和菓子について学び、その和菓子をもとに制作した器が展示されました。今回の学外展示は2018年の開催以来、4年ぶりの開催となりました。

今回は、企業コラボの制作での経験や、そこから得た学びについて、陶磁専攻の学生(鈴木夏音さん、小林桃奈さん、橋谷田航大さん)3名にインタビューを行いました。

左から橋谷田さん、小林さん、鈴木さん

とらやとのコラボ授業について

―とらやという企業とのコラボの授業への第一印象はどのようなものがありましたか?

(小林) 企業とのコラボという授業ではあったけど、あんまりそこまで怯えることなく普段の課題のように捉えていました。

(鈴木) 制作する前にリモートでとらやさんとのオリエンテーションがあって、そこで和菓子の知識を得てから器に落とし込んでいきました。逆にほかの課題だと、自分で調べて、器として発展させていかないといけなかったので、今回の課題はとらやさんというテーマが決まっていて作りやすかったし、みんな自然体で取り組めていたと思います。

―普段の制作と比べてどうでしたか?

(鈴木) 今まで制作してきたお茶碗やカップアンドソーサーは、どういうご飯に合わせるか、飲み物は何かなどを自分の解釈をもとに決めていって、それに合わせて作っていくという過程でした。でも、この課題は和菓子の解釈自体はとらやさんがもうすでに持っている部分があって、そこに合わせながら自分なりの解釈をしていく。普段の自分で決めてから作るという過程とは逆のことをしていくという面が普段と違ったところかなと。あと、オリエンテーション後のアイデア出しの時間がコロナの影響で結構長く取ってもらえたので、マケット(模型)も粘土を持ち帰って家で作った人もいたり、スケッチで落としたりと、器の制作自体は家でできない分、ブラッシュアップが普段の課題と比べて多かったかなと思います。その分、アイデア出しの後の制作の期間が例年と比べて短かったので、元からおおよその形を決めておいて、一気に制作を進めました。

鈴木さんの作品

―とらやの歴史、和菓子の中で印象に残ったことはありますか?

(小林) 課題をするまでとらやさんや和菓子についてあまり知りませんでした。ですが、とらやさんで売っている和菓子が、何年かのスパンで入れ替わっていたり、昔販売していた和菓子を再販する際、同じ味になるようにして販売していたりと、昔からの味を大事にしているのが印象的でした。

小林さんの作品

(鈴木) 私がモチーフにした和菓子は、季節限定のもので制作時には販売されておらず、制作時には試食ができませんでした。その分素材や作り方を聞き、味をイメージしながら制作していましたね。

(橋谷田) とらやさんから和菓子について聞いたことや、とらやさんのインスタに載っている和菓子の詳しい説明で得た情報があったので、実際に食べることができなくても和菓子のコンセプトが正確に想像できたのかなと思います。一方で、サイズ感は事前に教えてもらってはいたのですが、実物を見てみると思っていたより和菓子が大きかったことが印象的でした。

橋谷田さんの作品

器を制作して

―器を制作する時に大事にされたことはありますか?

(鈴木) もちろん、和菓子が器に入るようには気を遣いましたし、和菓子のコンセプトや形を落とし込んだ学生も多いと思います。なので、決められたお菓子のイメージが壊れないように、基本的にはそのお菓子の意味や形、味も含めて、食べる人を想像しながら、雰囲気が壊れないような、乗せても違和感のないようなものを作るのには気を遣ったのではないかなと思います。

―制作で困難だった点は?

(橋谷田) 焼く工程でヒビが入るなどがあることですね。

(鈴木) 窯から出すまで焼き上がりがどうなるか分からないんです。なので、何個も作って何個も焼いて、どれがいいかなって選ぶ時間が陶磁にはあります。その過程が長いので、例えば課題が7週間あっても制作できるのは6週間で、そのあと1週間は焼いたり講評があったりと、結構時間に追われて制作しています。

―ちなみに12名の方が制作された中で、気になった作品とかありますか。

(橋谷田) この作品ですかね。鋳込み(※)といって型を使って作っているんですけどこの形ってすごく複雑だから、どうやってこれを型で分けるかがぱっと全然想像つかないっていうか。でも、それができているのがすごい。

(※)鋳込みとは、複数に分けられた石膏型を組み合わせて、泥状の土を流し込み型通りの形を作るという量産の手法の一つだそうです。

陶磁専攻 王易知さんの作品「jealous」

(橋谷田) 陶磁工房は学年ごとに全員同じ教室で作業しているので、大体どの人がどうやって作っているのかが分かるんですよね。いろんなやり方があって、そこは面白いなと思います。

(鈴木) その分作り方がわからないと、それにすごく惹かれるよね。どうやって作ったんだろうと思われたいし、思われる作品すごいなって。

―展示して感じたことは?

(橋谷田) 学外展示で外の人に見てもらえたのが一番大きかったです。学校内で評価をもらう時は美術を知っている人が、技術的な目線でものを見てくれてすごく勉強になって面白いなと思うんですけど、やっぱり学内とか学生同士での関わりで収まっちゃっていたんです。でも、今回は学内外両方の展示ができるということで、学内と学外の展示の仕方の違いを出すために工夫をしました。学外で展示すると全然興味ない人もふらっと入ってきてくれるので、これは土でできていて、和菓子のための器なんですよ、というような説明ができて、あ、そういうことなんだとか、さっきの虎どうやって作ってるの、とか。そういう新鮮な反応をもらえたのがすごい勉強になったのかなと思います。

築地本願寺インフォメーションセンター受付前での「うつわと和菓子」展

企業コラボで得た学びとは

―この課題で学んだことは?

(鈴木) 各々が違った技法で制作していたので、他の人の作品や作り方に刺激を受けました。今までの課題と比べて自分の作品と向き合う時間がかなり長かったので、今まで挑戦したことのない技法に挑戦したり、とらやさんや和菓子について調べたりしながら作品を詰めていく中で、どういう技法をしてみたいかとか、自分がどういう技法が得意かとか考える時間がその後の課題に繋がっている人も結構いたなと思います。

学内で行われた「うつわと和菓子」展

(小林) 冊子や展示の計画、什器などを全部学生が考えて決めて作りました。その中でただ作品を作るだけじゃなくて、その作品を人に見てもらうためにどうやって見せるのが効果的かを勉強できたと思います。

(橋谷田) 和菓子のコンセプトに合わせて、自分なりの解釈を混ぜながら作っていくことが、自分と課題で社会があって、社会と繋がっていることを強く感じた課題でした。

築地本願寺インフォメーションセンター受付前での「うつわと和菓子」展


編集、執筆、取材:デザイン情報学科1年 海田実来

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