2023-10-13

樺山学長が考える、ムサビはどんな大学?

今年度からムサビの学長に就任した樺山祐和学長は、1983年にムサビの油絵学科を卒業した私たちの大先輩でもあります。ムサビ卒業後は画家として制作活動をしながら、助手や非常勤講師、教授を務め、およそ40年間ムサビに関わり続けてきました。
今回はそんな樺山学長にお時間をいただき、ムサビのことや学生時代のこと、表現者、教育者としての思いなどを幅広くお聞きしました。

樺山祐和学長

ムサビは、自由とは何かを学ぶ大学?!
ファインアートとデザインの関係性

—樺山学長はムサビってどんな大学だと思いますか?

僕がまだ学生か助手だった頃、ある美術評論家がムサビのことを「まるで“レルム”のようだ」と表現したことがありました。レルムというのは王国という意味で、一旦その王国に入ってしまえば、暖かいし、みんな面白くて、居心地がいい。その当時は「なるほどな」と思っていました。
今もそうだと思いますが、ムサビ生ってすごく母校愛が強いですよね。教員と学生の距離も近い。先生はおせっかいなくらいに学生に教えるし、ある種の一体感がある大学だなと思います。そんな教育風土があるので、卒業しても「ムサビ最高」という、いい印象を持つ学生がとても多いのかもしれません。

—学長が学生だった頃と今のムサビは、変わったところはありますか?

キャンパス自体の雰囲気はほぼ変わっていません。2号館や12号館のような背の高い建物が建ったけれど、中央広場の感覚は一緒だなと思います。
ただ、僕らが学生だった時と今の学生の意識というのは、やっぱり違うかもしれない。当時は、特にファインアートを専攻するというのは、なかなかの賭けだった。「絵を描いて生きていくぞ」という覚悟を持った学生が多かったような気がします。
今の学生はやっぱり失敗したくないんだろうと思うけれど、大学は失敗していいんですよ。

—私にとって、ムサビは就職のために行くのではなく、勉強をするために行く大学だと思っています。

確かに、ムサビは単に就職のための学びをするところではないですよね。ムサビの前身である帝国美術学校は、美術史の先生や東洋美術の研究者のような教育者がつくった大学です。その事実はムサビの学風を作ってきた一つの大きな要因だと思います。それは単に絵が上手になるとか、デザインのセンスを磨くとかと違い、根源的に、なぜ私達人間は造形活動をするのか、表現をするのかという本質的な問いを発することを重要視している事と関連していると思います。
ファインアートは誤解を恐れずに言えば、基本的に無目的な行為なんです。だからこそ、そこから深い意味が発生する。一方で、デザインは合目的であり明確な目的がある。人間や社会のために何かをデザインするわけで、全てに人間のクライアントがいる。ファインアートは、必ずしも人間のクライアントがいる訳ではないように思います。

—ファインアートとデザインの関係を、学長はどう捉えていますか?

僕はいつも「一つの心」という例を挙げて説明していますが、心というものには意識と無意識という領域があります。意識は言葉であり見えるもの。無意識は言葉でなく見えないもの。ファイン系は無意識に軸足を置き、デザイン系は意識に軸足を置いていると思います。
今、アートとデザインの境界が無くなってきたと、よく言われるけど、僕はそうは思いません。この現代においては、合目的なところがデザインの力だし、デザイン思考は具体的に世界を変えていく。一方で、意識的なデザイン思考を根底で支えているのは、無意識的で無目的なファインアート思考だと思います。だからデザインをやるにしてもアート思考は必要だし、ファインアートをやるにしてもデザイン思考は重要。つまりどちらの思考性も大事な両輪なんです。アートとデザインが限りなく近接することはあるけど、しかしそれは境界がなくなったこととは違うと思います。

学生時代の話と、学長にとって絵を描くとは?

—学長は学生当時サークルに入っていましたか。

僕が2浪してムサビに入った頃は、サークルが本当に盛んだったんです。だけど「どうして?」とちょっと不思議でした。ムサビに入ったのだからとにかく絵を描かなければと思っていました。今、思うと本当に真面目な学生でしたね。朝一番に来て一番遅くまでいるような学生でした。ずっと、絵を描く。ひたすら描いていた。しかし、サークルに入って、もっと他学科の学生とのつながりを持つことも大切だなと、今では思いますね。

—どうしてそんなに絵を描くことが好きだったのでしょうか。

僕にとって絵を描くことは、ある種の自己防衛みたいなものなんです。子どもの頃からなかなかの人見知りで、粘土で何かを作ったり、絵を描いている時だけ、ちゃんと世界が見えた。不安感とか恐怖感みたいなものから、作ることを通じて自分を守っているようなところがあったのだと思います。

—絵を描くことが辛くなった時はなかったですか。

ないですね。自分にとって、絵を描くことが必要だから。絵を描くという行為は、ものすごくシンプルなことで、それが必要な人が絵を描いているだけの事なんです。だから、お金があるとか、時間があるとか、いろんな物に恵まれているとか、そういうこととは関係なく、やっぱり絵が必要な人がいるわけです。描かないと心が埋まっていかない人がいる。

最近の学長と、教えることの喜び

—学長の仕事はお忙しいですか?

学長になりほぼ6か月ですが、本当に忙しいです。ただ、学生をきちんと指導するということがベースにあり、それを支えるベースが絵を描くこと。表現者として自分をきちんと律しないと、学生を指導する時に、リアリティのある言葉が伝えられなくなると思っています。

—そんなに大変なのに学長になりたかった理由を教えてください。

誰かがやらなきゃいけないと思ったし、学生がすごく好きだから、学生全体の事を考えるというのは、一つの喜びなんだろうと思いました。僕は教授になる前の非常勤講師の時期が長かったので、専任の先生に憧れていたんです。毎年新しい学生を迎えて、毎年4年生を卒業させていく。すごくいい仕事だなと。だから率直に言うと、学長になりたいと思ったのも大学運営への興味以上に、やはり学生がいるという事、そしてその全体に責任を持つという事が最大のモチベーションだったように思います。

—学生の指導はどういったところが面白いですか?

美術という領域は本当に、とても不思議で、年齢差も性別も、国籍もキャリアも、そういうものを全て吹っ飛ばして、同じ土俵に立てるんです。その関係性がとても面白いです。若い時、美術予備校で教えていましたが、その頃から教えることは好きでしたね。今は学長をやっていますが、指導するのが本当に楽しい。肉体的には疲れるけれど、こうやって君たち学生たちと話すのは本当に最高に楽しいです。

—学長をしながら表現者として作品を作り続けるというのは大変ではないですか?

作品というのは、作った本人以上に「その人」なんですよね。作品を見れば「ああ、そういうことなんだ」というのがすごくわかるし、表現する人の現在の有りようがわかってしまうものなんです。私達教員の作品も学生にそうやって見られているわけなので、なおさら自分の日々の制作をきちんとやらないといけないと思っています。
私は毎日のルーティーンとして、窓から見える木を5枚描くと決めています。ドローイングだからそんなに時間はかからないのですが、とにかく描いて、1日1回ちゃんと世界と対話することにしています。描くというよりも、対話するということなんです。

みんなちがって、みんないい

—最後の質問です。学長は、生まれ変わっても、また美術をやると思いますか。

美術ではないかもしれないけど、アート(芸術)をやりたいとは思います。例えば、音楽でもいいのかもしれません。美術とは違うけれど、音楽もものすごく大きな力ですよね。形がないところが、逆にいい。やっぱり、何かしらアートはやりたいと思います。

—全く違う分野には、興味はありませんか。

効率や合理性だけで動いている世界にはあまり興味がないですね。自由でいたい。例えば上司のような存在がいてもいいけれど「人間としてみんな平等なんだよね」という認識を常に持っていたいです。社長が偉いわけではないし、学長が偉いわけでもない。
ユートピアみたいな考えかもしれないけれど、そういう世界を志向しています。だから、詩人の金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」という言葉には本質的でとても深い大切な考えがシンプルに内包されていると思う。例えば、性別とか国籍とか民族とか、違ってもいいね。人間に限らず全ての存在がみんないいね。みたいに。
美大生はみんなと同じになりたくない。みんながそれぞれ違うことに価値を置いている人たちだけど、「美術っていいよね」というところは同じ。そして、「人間って平等だよね。命や全ての存在は一つだよね。」という同じ価値観を持ってる人々なのだと思います。それが、とてもいいところだと思っています。

終わりに

ムサビが第1志望であった自分にとって、樺山学長とムサビについてお話しできたことは、すごく貴重な経験となりました。インタビューの最後で学長が「美大生はみんなと同じになりたくない、みんなが違うことに価値を置いている人たち」とおっしゃり、他人とは違う道を進んでも大丈夫!だと励ましてくれているように感じました。おかげで自分が大学に入った理由を振り返ることができました。

アートか、デザインか、専攻を問わず、こんなにムサビのことや学生のことを考えてくれる学長。お忙しいながらも沢山のお話を聞かせてくださり、和やかで楽しい時間を過ごさせていただきました。樺山学長がこれから描くムサビも楽しみにしています。


編集・執筆・取材:基礎デザイン学科3年 イスア

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