2023-12-20

空デ新任、安藤北斗准教授に聞くムサビとロンドンの学生時代、そして今

2023年4月に着任した空間演出デザイン学科の安藤北斗准教授。ムサビを中退してセントラル・セント・マーティンズ美術大学を卒業したという安藤先生は、コンテンポラリーデザインスタジオ「we+」の共同主宰者でもあります。そんな安藤先生に、当時のムサビのことや学生時代に打ち込んでいたこと、また今ムサビ生である私たちに向けたメッセージなどをお聞きしました。

遊びまくった大学時代。ムサビからロンドンへ

—まず、安藤先生がムサビ生だった頃のことを教えてください。どんなムサビ時代でしたか?

あまりろくなことをしていなかったですね。今から20年くらい前の大学って、今よりもだいぶこう混沌としていたというか…、「個性派ぞろい」みたいな雰囲気でした。授業にも出たり出なかったりで、昼ごはんだけ食べて帰る人もいたりする。制作の思い出というよりも、友達といっぱい遊んだとかどこで飲み歩いたとか、そんなイメージの方が強いですね。今の学生は真面目だなぁと思います。

—楽しそうですね。サークルには入っていましたか?

入っていなかったです。空間演出デザイン学科(以下、「空デ」)自体がある種のサークルのような感じでした。今もそうですが、空デは男が少ないので、男同士で遊んでそのまま泊まって…という、昔ながらの美大生みたいなイメージでしょうか。

—人間関係を重視した大学生活だったということでしょうか?

すごくよく言えばそうかもしれませんが、端的に言うと将来のことを何も考えていなかったということですね。高校の時よりも同じ目的を持った人たちが集まっていて心地よかったんですよね。結果的に学ぶ方向を少しスライドしたいと思い、2年生の最後で中退したんです。ムサビを離れ、ロンドンにあるセントラル・セント・マーティンズという大学に行きました。そこでもとにかく遊びまくって、時間があればサッカーしたりキャッチボールしたり、田舎の小学生がやっているようなことばっかりやっていました(笑)。ただ同時に、課題も一生懸命やっていましたよ。

ムサビ時代、12号館下での制作風景

—セント・マーティンズでは、どんなことを学ばれたのですか?

今の仕事にも繋がっている、 リサーチを起点とした制作をしていました。セント・マーティンズでは最終的なアウトプットの精度より、制作のプロセスを大事にする風潮があって、マテリアルやコンテキストのリサーチなどに力を入れていました。商業としてのデザインではなく、文化としてのデザインを考えるようなところがすごく多い印象でしたね。 例えば、作ったデザインのオブジェクトが社会とどう接続していくのかを考えたり、今までのデザインという文化の歴史を紐解くなど、デザインの主語が「社会」そのものなんです。

—セント・マーティンズと聞くと、完成度の高い作品のイメージがありましたが、そのデザインにどう行き着くか、を重要視した授業だったんですね。

今、ムサビで出している2年生の課題で「家具ではない家具を作る」、というものがあります。「家具ではない家具」というテーマを出された時に、まずは「じゃあ、家具って何?」と考える。そこからさらに1歩引いた目線で、「デザインって何?」ということや、家具の歴史なども調べないと解けない課題なんです。家具というものをひたすらリサーチして、あるいは、デザインの定義みたいなものを考えて、家具ではない家具とは何だろうっていうのを最終的に導き出していく。だから、今までになかった視点を持つような家具であったり、家具の形状ではないけれど家具と呼べるものだったりするのも面白い。何かを作りたいというときに、いきなりアウトプットのイメージを描くのではなく、ロジカルに考えていく授業をしています。

人の脳みそを借りて進歩する

—学生時代にはどんなことに力を入れていましたか?

とにかくいろんな人に会うこと。 人間に出会う、ということですね。 もちろん同級生や先輩・後輩もそうだし、年上の人や全然デザインとは関係ない人たちや、それこそ飲み屋で知り合ったおじさんとか(笑)。とにかくいろんな人と話して遊んでいた記憶があります。そういったご縁は今も続いています。

—何故ムサビに教員として来てくださったのでしょうか。

大学のゼミで何かを研究したかったんです。運営しているスタジオの「we+」でもいろんなことをリサーチしていますが、大学という組織体の中でプロジェクトを動かすということも面白そうだなと。あと、実は私の父と母と兄が大学の教員なんです。そしていとこが10人くらいいるけれど、その半分が学生に教える仕事をしていて、慣れ親しんだ環境の中で育ったこともありますね。

—それは凄い血筋ですね。安藤先生は、ムサビでどんなことを教えたいと思っているのでしょうか。

デザインという領域に関して言うと、リサーチを起点としたプロセスを丁寧に踏んでいくことで見つかる種みたいなものを大切にしたいと思っています。あとやっぱり、教員と学生という立ち位置ではあるけれども、一緒に物事を考えていくという意味では「同じ船に乗る」という感覚があります。その同じ船に乗っている者同士、考えを繰り出しあっていきたいですね。「人の脳みそを借りる」と授業でよく言うのですが、人のアイデアを借りたり、ネットに落ちているいろんな情報を吸い上げたり、図書館に行って本を読んだりして、人の脳みそをどんどん借りて自分を補強していかない限り、進歩できないと思ってます。

やらないで後悔するよりやって後悔したい

—プライベートではどのようなことに興味を持たれているのでしょうか。

家が鎌倉にあり、竹林の中に住んでいます。たけのこや山菜が沢山採れるので、竹林の整備や冬に暖炉で使う薪割りをしたりしていますね。そんな広くはないけれど、小屋を建てられるくらいのスペースもあるので、竹で家が作れたらいいなと思っています。 海にも行きますよ。

—意外とアクティブなんですね。

あと、今年は柴犬を飼いはじめました。生まれてから少ししか経っていない子犬を迎えたんです。週末はずっと犬と遊んでいます。

リノベーション中の鎌倉の自宅

—今のムサビ生にメッセージをお願いします。

人生にはいろんな選択肢があるけれど、その中でどれが正しいかというのはわからないんですよね。でも僕は、自分が選んだ道で一生懸命やっていれば、自ずとそれが唯一無二で正しい道になると思っているんです。選んだ道の中で、美大生であれば課題を一生懸命やるというのはもちろんそうだし、とにかく人と一生懸命コミュニケーションを取る。そうするうちに、自然とその道でよかったなという風になると思います。だから振り返ってみると、僕自身はムサビをやめてセント・マーティンズに行ってよかったなと思うし、今またムサビに戻ってきてよかったなと思っています。

—できることはとことんやってみよう。という精神でしょうか?

そうそう。やらないで後悔するより、やって後悔する方がいい。「やるだけやったぞ」っていうかたちで作品を出すのであれば納得できる。いろんなところにアンテナをはって、たくさん考えるといいと思います。何となくやらないでいるよりも、とりあえずやってみるほうがいい経験になるのではないでしょうか 。

—私はやるところまでが悩みがちなので、勉強になります。選ばなかった道にあったはずの出会いとか、経験を捨ててしまっている気がして怖いんです。

僕自身は、興味のあることは、とりあえずやってみようというタイプでした。今でもそうです。その仕事が両立できるのかなんてわからないけれど、やってみてから考える。もちろん不安だけど、やってみないとわからないよねっていうスタンスですね。やってみてダメだったら、やめることもできる。そういう考え方ですね。


編集・執筆・取材:彫刻学科1年 横河碧唯

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