2022-09-09

まるで中学校のなかにあるギャラリー 「School Art Project ムサビる!」の今とこれから

「ムサビる!」中学生企画部が東大和市立第五中学校の生徒と協力し制作した立体。

「School Art Project ムサビる!(以下、「ムサビる!」)」は、夏休みの2日間、普段使われている中学校の教室で行う展覧会のプロジェクトです。「学校を美術館に!」をコンセプトに、2009年から 旅するムサビプロジェクト(注1)の一環として始まりました。学生や本学教員作品の展示のほか、中学生とのコラボレーションによる展示(中学生企画)や、ワークショップ、スタンプラリーなどを展開しています。
2年ぶりの開催となる「ムサビる!」のリアルを、東大和市立第五中学校にて取材しました。


インタビューに協力していただいた「ムサビる!」の委員長、神薗さん

視点のスイッチが替わる

奥田(以下奥):まず、神薗さんの自己紹介をお願いします。
神薗さん(以下神):空間演出デザイン学科の2年生、神薗穂香です。
奥:普段はどういった制作をされているのですか。
神:普段は空間自体を作ることが多いです。平面作品というよりかは場所をどう活かすかという感じです。
奥:Instagramを拝見したのですが、かっこいい、スタイリッシュな感じの印象ですよね。空間演出デザイン学科の神薗さんがムサビる!に参加しようと思ったきっかけをお伺いしたいです。
神:初めて見たときに「面白そう」というのがあって、勢いでやってみました。学校を借りられるなんてなかなかないと思って。
奥:学校という規模(中学校全体)は空間演出デザイン学科の授業のなかでは扱えない大きさなのですか?
神:そうですね。中学校全体とかはないので、結構新鮮ですよね。
奥:たしかに。私は油絵学科ですが、やっぱり学校全体というのは新鮮でした。
神:なかなか一人で教室なんて使えないし、魅力的で良いなと思いました。
奥:廃校とかでもなく、生きている学校っていうのも魅力的です。
神:かしこまりすぎない空間で作品を展示できるのもいいですよね。文化祭に近いけどちょっとアート寄りっていうのもあって、面白いです。

奥:ムサビる!というプロジェクトの目的について簡単に教えていただけますか。
神:今回のムサビる!は、東大和市立第五中学校で真夏の2日間、学校を美術館にするという活動です。中学生にもっとアートを知ってもらうというのと、いつもある学校という空間を1日特別なものにするという面白さを再現するといった感じです。もともとはムサビOBで中学校の美術教諭である未至磨明弘先生が自分の人生の中で何かやりたいということで始まりました。
奥:大きいテーマですね。参加している中学生は美術への感度の高い子が多いですか?
神:中学校の授業の一環でアート鑑賞があって、美術への関心のある無しに関わらず、展示は全員が見にきます。ムサビ生とコラボする中学生企画に参加するのは、その中でもアートが好きな子が多いと思います。
奥:狭い視点からも広い視点からもアクセスできるんですね。
神:色んな人が来れるのが良いですよね。好きな人だけじゃないというのが。
奥:入り口で課題シート配ってましたもんね。
神:そうそう。あれが宿題なのだと思います。
奥:宿題には十分なくらい校内に作品がありますよね。
神:大学生にとっても中学生にとっても、こんな贅沢な機会なかなかないですよね。

神薗さんの普段の制作。Instagramより。
中学生企画部の作品を鑑賞する神薗さん。

美術を言語においしい関係

奥:授業と両立してやられていた課外活動だと思うのですが、大変だったことはありますか。
神:「広報部」「中学生企画部」「ワークショップ部」「展示部」という4つの部署があって、特に広報部が大変でした。やらないといけないことに対してメンバーが少なかったので、どう回していけばいいんだとか。あと最初のほうはみんな結構つまずいていて、委員長としてそれぞれの部署にどうアドバイスをするか悩みました。みんなを元気付けるための工夫として、コミュニケーションを意識してなるべくいろんな人と話すようにしました。
奥:全体に気遣いながら進行するのはやっぱり大変でしたか。
神:みんながけっこう最後のほう進めてくれたから、「もう無理!」とはならなかったですね。

奥:では逆に、その中でもやりがいを感じた部分はありますか。
神:まずは、完成していく過程を見て、「良い感じじゃん!」という嬉しさがありました。あとは、途中コロナで開催できないかもしれないという心配もあったんですけど、無事に開催できたときに、お客さんが実際にいるのとか、みんながわいわいしているのを見て、「よかった、開催出来て。」と感じました。本当にそこですね。最後に形になるのが大切ですから。

奥:過去に開催した「ムサビる!」との違いなどはありましたか。
神:教授陣の参加がなかったのが、2年前と違う点だったと思います。これまでは教授がワークショップとかをやっていたので、2年前は楽しむ方がメインという感じだったんですけど、今回は作品鑑賞の要素が強いかなっていう。それはそれでアートに触れ合う機会が多くて、楽しいと思います。視点が大学生と中学生とでは違うじゃないですか。陳列されて固定化された展示に縛られていないギャラリーを巡っているみたいで今年は面白いかなと思いました。色んな視点を見ることができる。
奥:学生の作品に目が向くようになっていたということですね。
神:結構中学生に聞いても「あの作品がよかった」っていうのを言ってくれるから、例年がわからないけど、今年は学生に目が向いているのがいいかな。そこがギャップといえばギャップですね。
奥:学校の中にあるギャラリーというのがすごくしっくりきました。
神:気軽に行ける都心みたいな。都心だとギャラリーが沢山あって一つ一つまわるけど、ムサビる!は校舎の中で済む。大学生がいるからちょっと緊張感みたいなのも人によってはあったかもしれないんですけど、中学生にとっては自分たちの学校だし、ギャラリーより入りやすいですよね。
奥:感想シートもあって人に思いを伝える練習にもなる。
神:確かに。学生にとっても講評でプレゼンみたいなのはあるけど、自作について身近な人に話す機会ってなかなかないので、展示している人にとっても良い気がしますし。お互いにとって良い邂逅です。

ワークショップ部主催のペンライトアートを体験できる「ひみつの教室 光と遊ぼう」の様子。
スタンプラリーのゴール地点ではオリジナルのバスボム作りを体験できる。

ムサビ生×中学校=未来

奥:ムサビる!の活動が自分の作品や制作に影響した部分とかありますか。
神: この活動で、何か物事を進めていくやり方や、自分が前に立ってやるということを学んだので、ディレクター寄りのことを始めるきっかけになりました。今は、いろんな人に作品を提供してもらって、商品開発をして写真を撮って発表する、ということを始めているところです。
奥:それは委員長を経験した神薗さんならではの視点ですね。
神:いろいろ幹部の子も学んだことがあったと思います。全体的に進めるところで、作るというよりかは会社でどう動いていくかとか、企画から世間に出すまでの一連の流れが学べたと思いますね。
奥:制作というより、今後働くうえで活きる経験だと感じたということですね。
神: 技術は大学で学べますが、制作したものをどう人に届けるかというところが実践できるというのは貴重だと思います。この活動では上から言われたことをやるのではなく、自分たちで考えて進めていくので、責任もあるけれど学びが大きく、安心感もあります。

奥:来年「ムサビる!」がまた開催されるとして、参加を検討している学生に一言お願いします。
神:絶対損な部分がないというか。自分の実になることが沢山あるので、出品者としても運営側としても学べることが多い。実際学校ではできない学べないことが学べる。作品の出来だけじゃないところが学べるから、それは良いと思います。迷っているとしたら、一歩踏み出したらいいと思います!

入り口の看板。ポスターも広報部がギリギリで発注しました。
未来に向かって進行するムサビる!号

(注1) 旅するムサビプロジェクト(通称:旅ムサ)は、学生が全国各地の小中学校を訪れ授業を実施する取り組みです。美術館がない地域で中学美術教諭をされている本学卒業生からの「生徒に本物の美術作品を見せたい!」という依頼に対して、学生の作品を学校に持ち込んで鑑賞授業を行ったことを契機に2008年にスタートしました。2017年には活動10年を迎えました。
(武蔵野美術大学HPより 
https://www.musabi.ac.jp/collaboration/community/school/tabimusa_project/)


編集・執筆・取材:油絵学科4年 奥田成美

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