2023-09-15

化粧品が画材に!?廃品でSDGs活動に取り組む化粧品製造会社

化粧品を作る際に発生してしまう「廃棄バルク(廃棄される化粧品の中身)」を画材として利用した絵画作品を、日本画学科研究室が制作しました。作品は「武蔵野美術大学 日本画学科 有志展」として、2023年夏にコート・ギャラリー国立で展示されました。廃棄バルクを提供したのは、化粧品OEM・ODM会社のアサヌマコーポレーション株式会社。SDGsの一環として実現したコラボレーションについて、アサヌマコーポレーションの企画・ITGの山根聡子さんと小池麻由子さんにお話を伺いました。



アサヌマコーポレーション株式会社
1952年設立。アイライナーやアイシャドウ、口紅、ファンデーション、スキンケア用品、ネイル製品など幅広い製品のOEM・ODMをしている。SDGs活動として廃棄バルクや期限切れ原材料のリサイクル、再利用可能な容器・包装開発や、環境負荷の少ない処方療法などにも力を入れている。
https://asanumacorp.com/

※廃棄化粧品の画材化については、株式会社モーンガータが技術構築し特許を取得しています。また同社では画材のほか、ジェルネイルなどの雑貨創作に活用できる色材も開発し、提供しています。

株式会社モーンガータ
https://man-gata.com/

化粧品製造会社としてSDGs活動に取り組む

―まず、なぜムサビとコラボレーションしようと思ったのか教えてください。

小池麻由子さん(以下、「小池」):弊社の工場は神奈川県の相模原にありますが、その近隣地域ではいくつもの大学が広大なキャンパスを運営しています。そこで産業と大学で何かSDGs活動ができないかと考えた中で、美術を学ぶ学生であれば私たちが思いつかないような活用をしてくれるのではということで連絡させていただきました。
大学の社会連携チームに廃棄バルクを制作に幅広く使っていただきたいとご相談したところ、日本画学科研究室が手を挙げてくださいました。

―日本画と化粧品というのは雰囲気が似ているなと感じていました。今回は日本画学科とのコラボですが、化粧品の会社として、他にも何かSDGsに対する取り組みはしていますか?

小池:化粧品の廃材から絵の具を作っている株式会社モーンガータと協力をして、廃棄バルクを絵の具にする取り組みをしています。ぜひ日本画学科だけでなく、他の学科の学生さんたちにも使っていただきたいです。また弊社はODMとして容器の商品開発も手掛けていますが、将来的にはサステナブルな社会の実現ということで、再利用可能な容器包装開発や環境への負荷が少ない手法の開発などをしていきたいと考えています。

アサヌマコーポレーションの相模原工場で化粧品の製造工程を見学する日本画学科研究室の学生たち

廃棄バルクって?

―今回のインタビューにあたり調べたところ、化粧品の着色料は有機合成剤、無機顔料、天然色素の3種類あることが分かりましたが、日本画学科に提供した廃棄バルクは3つのうちどれに当てはまるのでしょうか?

小池:その中だと有機合成剤と無機顔料が含まれております。有機合成剤や顔料は、恐らく日本画学科で学生の方が使用する顔料と同じものだと思います。工場見学していただいた日本画学科の川名助教からも、絵の具と化粧品の色の原料は共通しているというお話を伺いました。

―初めて知りました。では、どういう過程で廃棄バルクは生まれてしまうのでしょうか。

山根聡子さん(以下、「山根」):例えばファンデーションやチーク、アイシャドウなど、粉を固めて製品にしているようなものは、最初に粉といろいろな溶剤を混ぜて固めます。その際に、中身は問題ないのですが、いわゆる規格外製品がどうしても出てきてしまいます。そういうものは製品としては売り出すことができないので、廃棄になってしまうんです。
ムサビで試していただいた廃棄バルクも、弊社の化粧品製造過程で出るものです。化粧品はお客様の肌に直接触れるものなので、アレルギーや湿疹などのリスクを排除する必要があります。そのため品質検査が行われるのですが、検査で消費されず残ったものを引き取っていただき、画材として使えるか試してもらいました。

色鮮やかな化粧品の廃棄バルク

―とても厳しい検査をクリアしたものが店頭に並んでいるのですね。日本画に使うときには廃棄バルクの色味をそのまま上に乗せるという感じで、混ぜたりはしないのでしょうか。

山根:顔料は原料そのままの色味ですが、バルクというのは色々な原材料が混合物になってできたものです。例えば、ちょっとキラキラさせるラメが入ることもあれば、真珠のようなツヤ感を出すパールが入ることもあります。もちろん油や水、アルコール成分も入っています。そういう混合物が廃棄バルクとなっていますが、それを学生さんたちの作品の製作にご活用頂けないか、検討していただききました。

―廃棄バルクの色味がそのまま作品に現れるのでしょうか?

山根:そうですね、ラメが入っていたらキラキラしていると思います。普段の目元メイクで見られるような色のイメージが再現されるのではないかと期待しています。

廃棄バルクを使った学生の作品(一部)

―日本画でラメがかったり、パールがかったりという表現はなかなか見ないですよね。廃棄バルクは画材以外ではどのように活用されていますか?

山根:モーンガータ社との新たな取り組みでは、化粧品のパッケージや名刺のインクを廃棄バルクで作れないかという展開をしているところです。今後はパッケージにも化粧品と同じラメが入っていたり、印刷が化粧品の色を使っているなど、廃棄バルクがよりSDGs活動に繋がっていくのではないでしょうか。

―テスターではなく、パッケージ見たらその商品の色がわかるというのはいいですね。ちょっと楽しみ!なんかワクワクします。

山根:弊社の名刺もいつかはキラキラが入るといいなぁと思っています(笑)。

アサヌマコーポレーション研究所

小池:こちらが弊社の研究所です。ここで新たな処方や開発、商品になるまでのメーカーとの商談などが繰り広げられます。そしてできたものがドラッグストアやデパートなどの店頭に並んでいきます。学生さんが使っているようなメイク用品も、ここから発信されているものが多いのではと思います。

―ごく身近な化粧品がこの研究所で作られているんですね。

山根:はい。コスメYouTuberがレビューすると次の日にはドラッグストアで売り切れてしまうような、それくらい情報伝達の速度が速い中で、弊社が手がけるヒット商品もかなりあります。ぜひ興味を持って店頭で見ていただけると嬉しいです。

―えー!すごいですね。次回から気をつけて見てみようと思います。

画材と化粧品と美大の繋がり

―私はデザイン系の学科なのですが、絵を描くための画材といっても種類がいろいろあり、画材は絵画を制作する学科だけのものではないと思っています。デザイン系の学科もアクリルガッシュなどを使用したりする場面は結構あるので、廃棄物を画材に転用していけるというのはムサビのあらゆる学科にとって関わりのある話だと思います。

山根:そうですね。私たちには美大生の持つクリエイティブな視線というのは無いので、学生生活を送っているみなさまの新しい発見や提案などの意見はぜひ聞いていきたいと思います。
また、化粧品業界全体でオーガニックなものが非常にヒット商品になりつつあります。使われる原材料が自然由来のものというところもサステナブルではありますが、それが自然破壊に繋がらないようにしていくのは、業界として考えていかなければいけないことです。弊社はOEMなので大手メーカーの取り組みに賛同して一緒に歩みながら、SDGsの活動を発展させていければと思います。


編集・執筆・取材:クリエイティブイノベーション学科1年 村﨑莉彩子
写真:アサヌマコーポレーション提供(学生作品の画像を除く)

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