2021-04-12

コロナ禍で生まれた公開コンペ×Mのたね

MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店で2021年3月7日(日)〜5月23日(日)の期間、3期にわたって開催されている第2回「Mのたね」。本展は、“この展覧会から、今後何が起きるかは分からないけれど、使っていくことでまた新しく使う人が現れ、それによって何か新しいモノが生まれる。その連続で「場」の指針が見えてくれば ” という思いのもと生まれています。

コロナ禍の中で行われた公開コンペのお話や、展覧会をこの場所で開くことの意義、私達学生が挑戦していくべきことなどを、公開コンペを発案し、審査員も務めた油絵学科の袴田京太朗先生にインタビューしてきました。

第2回「Mのたね」について

__まず始めに今回の「Mのたね」の概要を教えてください。

今回の「Mのたね」は2つの企画が合体したような企画です。1つは2020年3月に同じ場所で開催した第1回「Mのたね」。このときは、彫刻学科の伊藤先生や冨井先生、助手の椋本さん、油絵学科の小林孝亘先生、小林耕平先生、空間演出デザイン学科の鈴木先生が出展しました。本来は商品を設置するようなスペースも活用して展示を行った新しい形の企画展だったんです。もう1つは鷹の台キャンパスの2号館にあるギャラリーgFALとFALで2020年度に開催した展示です。これは油絵学科内での学生公募展で、公開コンペで出品者を選びました。

学生の展示になった経緯

__「Mのたね」の出品者が前回は教授や助手の方達だったのに対し、今回は学生です。それはなぜですか?

実は出品者が学生になったのは、「去年は先生達の作品だったから、次は学生の作品にしよう」という流れではないんです。経緯としては、油絵学科内での学生公募展が盛り上がったので、市ヶ谷チームの職員である河野さんと第1回「Mのたね」に関わっていた彫刻学科の冨井先生に、別件の打ち合わせをしていた時にその時の様子を話したんです。そしたら「公開コンペ凄い面白いですね、『Mのたね』でやっても面白いかもしれないです」という意見をいただいて。そこからつながって、第2回「Mのたね」も公開コンペ形式で開催する事が決まったんです。

僕自身は前回の「Mのたね」には関わっていなかったんですが、市ヶ谷キャンパスの1階にある MUJIcom という特別な場所で開催されている事自体がいいなと、前から思ってたんですよ。大学という仕組みは社会から守られていますが、 一方で、市ヶ谷キャンパスは都心に近く、 MUJIcom という社会と繋がる施設が入ってる少し特殊な環境なんです。

第1回「Mのたね」の様子(MUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス)

あともう一つ、実は教員がムサビの校内で実際に作品を見せる機会って少ないんですよ。これだけアーティストが沢山いて、美術館もあるんですけど。なので教員も、学校の中では教員としてじゃなくてアーティストとしての顔を違う形で見せるのも必要だなと思っていたんです。そういう面でも第1回「Mのたね」はいいなと思っていました。

__ちょっとした雑談から展示にまで広がった感じなんですね。

偶然とか縁とかがうまい具合に合致した感じですね。

__コロナの時期にしては珍しい拡がり方をしましたね。

そうですね。それでも、コロナがなかったら油絵学科内のコンペもなかったので、ある意味コロナのおかげかもしれないです。ネガティブなことが多いから少しぐらいポジティブなことがあってもいいですよね。

公開コンペという形をなぜとったか

__今回「Mのたね」で公開コンペの形式を採用したのは先程油絵学科での前例があったとのことですが、そもそも公開コンペはどうやって生まれたんですか。

公開コンペ自体は僕の思いつきで始まったんです。まず、コロナで芸祭が無くなったじゃないですか。

__無くなりましたね。

芸祭は学生にとって、外に向かって作品を発表できる貴重な機会です。さらに、芸祭は教員も課題も関係無く、学生が主体になって見せる場所でもあるので学生の発表の場として大きい役割を持っています。それと、課外センターでの展示もコロナで閉鎖。課外センターも学生が自主的に展示できる場所ですが、今年は使うことができませんでした。

この2つの場が使えなくなったことで、学生主体で発表する機会が失われているというか。それってよく無いなと思って。それでなくても、学生がコロナで萎縮してしまうような感じがあったので。そこで、gFALとFALを開放することにして、何かやりませんかと学生に投げたんですね。そしたら結構反応が大きくて、学生たちも色々考えてくれて。僕らはそれを受けて公開コンペをやったという感じですね。

油絵学科で公開コンペという形を取ろうと思った理由はこれが正規の授業じゃないっていうのが大きかったです。というのも、普段の授業の、用意された課題にしたがって制作して、講評を受けるという流れは、教員や研究室から守られた状態なんですよね。でも公開コンペはそうじゃない。守られていない状況での作品制作と講評の場を作ったんです。在学中はそういう機会があんまり無いと思うんですけど、卒業して社会に出ると評価の連続で結果を出さないと次に進めない環境になります。

__一つ一つクリアしていくみたいな。

そう、ある意味厳しさというか。だからそういう機会が学生の時にあってもいいんじゃないかと思いました。ちなみに、公開審査は僕が好きなお笑い番組の「M-1グランプリ」を参考にしました。「M-1グランプリ」は審査員の点数が公開されるんです。誰が評価した、していないがわかる、そこがいいと思っていて。一方で、審査の時にあの人はこういうのを褒めるんだとか、この人のことを全然評価していないのかみたいなことも分かってしまうので、教員としては少しやりにくい。だけど授業じゃ無いからこそ僕らも試されるような感じです。審査を公開することで、自分が何故ダメで、なぜあの作品が選ばれたかが一回ブラックボックスの中に入るのではなくて、全部見られるようにすることが必要だと思います。僕はそこにこだわって今回の公開コンペによる「Mのたね」を進めていましたね。


「Mのたね」公開コンペの様子

__公開コンペを通して、先生ご自身はどう感じましたか。

そうですね、やっぱりプレゼンが大事だなってことはあったかもしれません。企画書を読むのとプレゼンを聞くのとでは、だいぶ受けとり方が違ったんですよ。それに審査員側も、プレゼンの時は瞬間的に判断しなくてはいけない緊張感があって、失敗できない。正直、かなりエネルギーを使いました。でもその分面白かった。審査する側にとってもいろいろ勉強になることが多かったです。審査の中での駆け引きとか、意外な人が意外な作品を褒めていたりとかね。

Mのたねで注目するべきポイント

__Mのたねの展示で特に注目してほしいという所はありますか?

そうですね、やっぱり一番大きいのは、ホワイトキューブのような美術館ではなくて、店舗という特徴的な空間に作品を展開させていることです。店内での展示は課題や授業とも違う、やっちゃいけないことのルールが明確にあるんです。その制限の範囲で作品をまとめていくことは出来なくはないけど、それで本当に面白いのか、どれだけ自分が自由に振る舞えるのかというのは1つポイントになると思うんですよね。なので、そこを見てもらえたらと思いますね。

実は僕は、学生達が作品を発表する時に、問題になりそうなことを先回りして回避しようとする傾向があるのを普段から少し危険だと思ってるんです。学生のうちは学校にある程度守られながら試せる時期なので、1回やりすぎて、これはまずいんだみたいなことをやってから考えるということでも良いはずなのに、やる前に考えちゃうような事があるようです。だからこそ、今回のような特殊な空間で作品がどこまで場に絡んでいっているかを見てほしいです。

第1回「Mのたね」の様子(MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス)

__学生にとっても試していける場になったんですね。

そうだと思います。特に今回の公開コンペだと、 MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店の前店長も審査員として参加してもらったので、「店長、この展示方法はどうですか?」「いや、これはちょっと難しいですね」と意見をいただいたり、商品を隠しちゃうのはいけないよなとか、どの辺までいいんだろうという歩み寄りというか、そういうことをしたんですよ。参加する学生たちがどこまでやんちゃできるかというのは審査員の僕達も興味がある。ここまでやっちゃたの?という怖いもの見たさもあるし(笑)。

また、僕は展示空間がもつ制限をどれだけ新しい発想で転換して自分のものにできるかというところに一番興味があります。一歩引いて作品をスッキリ見せるのではなくて、規制に挑んでいくことがどこまでできるのかなってところですね。

「Mのたね」×公開コンペの今後

__今後の「Mのたね」について構想していることがあったら教えてください。

そうですね、僕自身が来年以降も「Mのたね」に関わるかはまだ分かりませんが、少なくとも3回くらいは続けたいと思っています。単発で終わるともったいないし、続けたら何か引き出せるかなという感じもしているので。展示された作品を見た学生からのレスポンスも楽しみにしたいですね。

__その3回の中で工デ(工芸工業デザイン学科)の私が参加できるものもありますか?

それもポイントだよね、今回ファイン系だけでやっていたのは、とりあえず範囲を限定して実験的にやった感じでした。空デ(空間演出デザイン学科)の鈴木先生にも審査に入ってもらっていたし、今後は学科を限定する必要はないかなと思っています。

__ほんとですか、その時は参加してみたいです。

是非是非。

__告知はどういうところを見れば良いでしょうか?

ライブキャンパス(学内システム)で公開すると思うけど、紙媒体で刷ったものを校内中に掲示したりとかね。告知は頑張ってしたいと思います。

第1期の出品作家、村松珠季さん、小西航生さん、柳田美侑さんの作品イメージ

第2期の出品作家、恒川莉沙さんの作品イメージ

第3期の出品作家、上久保徳子さんの作品イメージ

「Mのたね」                

第1期:2021年3月7日(日)〜28日(日)
【作家】
村松珠季(大学院造形研究科彫刻コース1年)
小西航生(大学院造形研究科油絵コース1年)
柳田美侑(大学院造形研究科油絵コース1年)

第2期:2021年4月4日(日)〜25日(日)
【作家】
恒川莉沙(大学院造形研究科彫刻コース1年)

第3期:2021年5月1日(土)〜23日(日)
【作家】
上久保徳子(大学院造形研究科彫刻コース2年)

10:00-20:00 | 観覧無料 |
MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス

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取材、編集、執筆 工芸工業デザイン学科1年 内田有希乃

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