『AGAIN-ST』とは何なのか
2022年10月24日(月)から武蔵野美術大学 美術館・図書館では、「AGAIN-ST(アゲインスト) ルーツ/ツール 彫刻の虚材と教材」という展覧会を開催します。この展覧会は、日本の彫刻の現状とその有効性について、正解を求めるのではなく考える機会を創出すべく活動するAGAIN-STの10回目の展覧会です。AGAIN-STは、彫刻を主な表現領域とする作家であり美術教育者という2つの側面を持ったメンバーで2012年に結成されました。
今回は、AGAIN-STのメンバーで、武蔵野美術大学彫刻学科の冨井大裕教授にお話を伺いました。
過去の彫刻と自分達を振り返る
—まず、「AGAIN-ST」というグループ名の由来を教えてください。
AGAIN -STは10年前に始めたもので、その頃私たちは40代前後で、大学の教員になったばかりだったんです。大学や予備校、高校などにおける彫刻というものの教育について、自分たちより上の世代に対して“アゲインスト”したかったということで立ち上げました。といっても、ただ反発したい、攻撃したいということではなくて、私たちが教えてもらった彫刻の面白さというのは、私たちの世代には伝わっているんです。それでも、教員になってみたら同じことを伝えても伝わらない。時代の変化に合わせて伝え方や伝わり方は変わっていくので、やっぱりもっと伝わるようにしていかないと、ということですね。
—それで“反発”という意味のあるAGAIN-STとなったんですね。
これは、「AGAIN」と「ST」の間にハイフンが入っているのがミソなんです。これまでのことを否定したいわけではなく、やってきたことをもう一度考えましょうよ、過去をもう一度面白がりましょうよ、という、今の世代に伝えていくための呼びかけでもあり、それを少し攻撃的に“アゲインスト”と表現しました。
—AGAIN-STは、メンバーがみなさん作家であり教員であるというのが大きな特徴ですが、どのように結成されたのでしょうか?
それまではそんなに深い付き合いがあったわけではないのですが、2011年に偶然みんなが大学の教員になったんです。それも面白いことに、それぞれが自分の母校ではない大学で。みんな母校で自分が学んで理解してきた「彫刻」があり、母校であればその空気をそのまま伝えることができたと思います。ところが、他の大学だとその共通認識が違うということに直面して、「そもそも彫刻ってなんだっけ」というところに立ち返ったというのが一つ。これは、他のメンバーも同時期に同じように「彫刻をどう伝えたらいいかわからない」と言っていて、これまで当たり前に彫刻だと思ってきたものが、外の大学では違うことに気づいた、ということです。
もう一つは学生との世代の違いがありました。メンバー4人は当たり前に共有できる感覚や言語が、今の学生には伝わらない。そんな中でどうやって彫刻を伝えたらいいかがわからない、となったんです。それで、もともと違う大学で、違う言語で彫刻を学んだ自分たちが集まって、彫刻ってこうだよねと、まずは面白がってみるのが大事なんじゃないかという話になりました。
本当にカジュアルなぼやきからで、堅苦しくやりたくなかったというのもありましたし、「これが彫刻だ」って教えるのではなくて、「なんだろうね、彫刻って」というのを出していく。作家だけど教員になってしまった自分たちが面白がっているということが大事だし、それが教育になるんじゃないかなと考えました。
—教員と作家という二つの視点を持つからこそ見えてくることはありますか?
まず、なぜ教員になったのかを考えることで、自分の立場や状況を客観的に見ることになるんですけど、大学で教育を受けた人間が作家になって、教員として大学に戻ったときに、何を教育として面白がれるか、というのがAGAIN-STなんです。なので、二つの顔があるというのは大前提で、その中で作家だとできないことが教員だとできる、教員だとできないことを作家でやる、という風に二つのツールとして使えればいいのではないかと考えています。AGAIN-STでは、教員という側面を持ちつつ作家として大学を見ていたり、作家としてだけではなかなかできないようなことをやっています。
私たちの身の回りにある価値とは
—今回の展覧会について、見どころを教えてください。
今回はいろんな大学の授業で使われている道具や、自分たち作家が個人で使っている道具も展示します。そうした道具については、説明というよりは見た目の違いとか、視覚的に見えてくる情報を感じてほしいと思っています。
彫刻を学ぶ学生には、当たり前に扱っている道具が意外と面白いということを感じてほしいですね。普通に使っていたものが、実は他の大学と比べたら普通じゃなかったとか、なんで自分たちはこれを使っているんだろうと考えてほしい。自分たちでルーツやツールを考えてほしい。それが“AGAIN”なんですよね。AGAINを展示することでAGAIN-STになる。ちょっと攻撃的に「見てよ見てよ」「面白いぞ面白いぞ」って伝えたいんです。
そして、彫刻と関係ない人には、自分たちのことに置き換えて見てほしいです。例えばカメラや料理などでも、自分が当たり前に使っているものや言葉も、昔のものや他の地域のものと比べたら全然違うものに見えてきたりするかもしれません。そういうことが面白い、ということを、今回は彫刻をお題にして感じてもらえたらと思います。
—自分はデザイン学科で彫刻について考えること自体あまりなかったので、とても興味深いお話しでした。最後に、ムサビ生に一言お願いします。
彫刻は、まずは「なんだこれ?」って思って見にきてもらえれば。美術館は近いけど、いつでも行けると思わず見にきてほしいです。当たり前にあるものは見逃しやすいので、気がついたらなくなっていたりする。展覧会もそうですし、身の回りにある価値を楽しんだほうが得なんです。
【AGAIN-ST ルーツ/ツール 彫刻の虚材と教材】
会期 2022年10月24日(月)-2022年11月20日(日)、2022年12月5日(月)-2022年12月24日(土)
時間 11:00 – 19:00(土・日曜日、祝日、10月28日(金)は 10:00 – 17:00)
休館日 水曜日
入館料 無料
会場 展示室3
主催 武蔵野美術大学 美術館・図書館
協力 金沢美術工芸大学彫刻専攻、多摩美術大学彫刻学科研究室、東京藝術大学美術学部彫刻科彫刻研究室、東京造形大学彫刻準備室、日本大学芸術学部美術学科彫刻コース彫刻専攻、武蔵野美術大学彫刻学科研究室
編集・執筆・取材:視覚伝達デザイン学科1年 大川直人