2021-03-03

竹が示す過去と未来の社会のあり方

MUJI com 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店で開催中の「BAMBOO DESIGN」〜竹のデザインと未来〜。日本に古来から生息する竹という資源と竹を取り巻く私達の社会に着目し、アジア諸国と交流、研究を行ってきた本学の活動や、アジア諸国の最先端の開発やデザインを通して、アート、工芸、日用品の可能性や未来の「当たり前」を考える展覧会だ。展示に至った経緯から竹というものが私たちに投げかけるメッセージまで、プロジェクトを率いる武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科の若杉浩一教授に話を伺った。

竹が指し示す未来の状況を考える

―はじめに展覧会のコンセプトと概要をお聞かせください。

これからは循環型社会だと言われています。循環型社会とは、ものを使ったらそれらを使ってまた再生産するサイクルです。現在世界中で使われているプラスチックなどは、鉱物や石油がなくなったら生産できません。

そんななかで、今欧米諸国が注目しているマテリアルが、環境に優しく、軽くて丈夫な「竹」。竹は日本や東南アジアから中南米にかけて生息している植物です。4年から5年で青竹になるほど成長が早く、根を広く張っていくので生命力が強い。うまく需要と供給のバランスを取れたら再生産のサイクルができます。そのうえ竹は万能で、今の技術だと生活用品やエネルギーや繊維、建築など様々なところで使えるんです。

昔、竹が生活に使われていた時代はうまく需給のバランスが取れていたものの、今は需要が減ったことで竹が余り、竹害にあっている地域もあります。
日本で竹が昔ほど使われなくなった原因の一つとして、値段が高く手に入りにくいことが挙げられます。
値段が高いのには、切る人の元にほとんどお金が入らないから。何かデザインしても、お金にならないから竹を製材してくれる人がいないんですよ。昔は畑仕事が休みになる冬の間、農民が竹ざるや竹籠を作ってお金にしていましたが、今はニーズがないので誰も作らないんです。竹はすぐそこにあるというのに。
石油は掘ればお金になりますが、竹はお金にならないという社会を我々自身が作っているんですよ。

日本の一次産業に共通するテーマで、手間がかかる、お金にならないという理由から、資源は海外から調達するようになっています。ところがその資源が枯渇し始めると、次の新しい資源を新しいテクノロジーを使って見つけなければいけない。テクノロジーは日本にたくさんある、そして竹という資源もあるときたもんだ。こういう社会の中でデザインは何をすべきかというのが、「BAMBOO DESIGN」の元々のテーマ。
竹がもののあり方や産業や暮らしを変えていく。我々の価値観も変えていく。
だからこの展示は竹のデザイン展ではなく、くるべき循環型社会に向けて竹というものが指し示す未来の状況を考えようという話なんです。

―こちらに様々な竹の作品がありますが、どのようなコンセプトなのでしょうか?

《takemono》は、竹を編むための素材を作る工場で出る端材から出来上がっているものなんですよ。まず生産のスタート地点である工場に利益をもたらそうということで、竹を切った状態の製品をデザインしたんです。だから切って白漆で塗っただけというように、技術をあまり使っていません。端材の部分に利益をもたらせられれば、他の竹製品に使う素材を作ることにも繋がります。
本来は捨ててしまう材料をお金に変えることは、全体の産業を支える基盤にもなる。まずそこを抑えようというのがBAMBOO DESIGNプロジェクトの始まりなんですよね。

日用品の作品が多いし、売ることを前提としているので販売もできます。値段もついているんですよ。これが売れれば竹屋さんにも利益が出るので、どんどんやっていこうと思っています。今回ここで売ってみて、次はMUJIで売ってみようかな、と流通をデザインしているところです。

《MAD-ERIAL》は竹が紙になるというプロセスをひとつのオブジェクトに落とし込んだメッセージ性の強い作品です。下から順に、竹、繊維、セルロース、紙と、竹の状態が移り変わっているんです。
実際にセルロースの繊維そのものだから、昔から竹の紙って作られているんですよ。助手の方の作品ですが、面白いですね。

《bamboo frame: lensless》は良いでしょ、メガネ。中臣君というアーティストの方が学生の作品をベースに作ってくれたんですよ。誰かちゃんと形にできるプロの方に作ってほしいですねという話が上がったので、中臣君に興味ある?って声をかけてみたんです。そうしたら“面白そうだから、やってみます!”とお返事をいただき、こうなりました。竹は熱で曲がって形状を維持できるんです。こういう、アジアの中でも優れている日本の繊細な工芸技術を用いたり、他にも色々な加工ができますよね。

ものだけでなく仕組みを作るデザインを

―展示作品を見せていただく中で、竹の可能性を強く感じました。本展を通じて竹のどんな部分を伝えたいですか?

まず、竹の素材としての可能性の提案があります。一方で、《takemono》のように竹の産業を支えるには、竹を切る、成竹する、製材することのデザインもあります。さらに、その産業を支える人たちの生活を成り立たせるためのデザインも出てきます。
また、竹林は綺麗に手入れするとすごく美しいけど、ほったらかしにするとすごく汚いんです。
たくさん密に生えてくるし倒れてくるし、他の植生を乱していく。暗くなった竹林には猪がやってきたり、筍も取らないから動物が食べにきたり、山の生き物が里に降りてくることになったりして生態系が変わっていく。竹を使っていけば竹林も美しくなるし、人間と動物が暮らす場所の境界線も明確になっていくことにもつながります。だから竹を使うついでに竹林を美しくする、というデザインもあるんです。
それに、コストだけを求めるのではなく、自然の環境や社会に貢献したいという気持ちのデザインもあります。
そういうものを包含して考えると、遠く離れた山の状況、切る、成竹する、ものを作る、使う、生かす、そうやって得た恩恵をもう一度地域に還元していくという、さまざまな仕組みのデザインであふれている。竹はまさにデザインの宝庫だと思います。

さらに、竹には日本の技術が目指すべき未来を指し示す役割もあります。そこで必要なのが「価値を可視化するデザイン」。竹が持つ可能性を社会に提示するためには、産業論や経済論ではなく、その価値を見える化するデザインが求められるんです。

そういう自然資本と言われるものは日本にたくさんある。しかし、日本は技術立国だからと資源を輸入し、加工し続けています。農林水産業のベースがありながら、自然資本と言われるものだけでは食べていけないのです。
今、人件費が安い中国や東南アジアにどんどんものづくりが外注されていて、日本は自分たちがやってきた産業を手放しつつあります。
いわゆる集約型の労働というのが成立し得ない状況になってきて、次の社会に移行しようとしている。今までの幸せのロジックが成立し得ない時代があと10年経ったらさらにリアリティを持ってきますよ。
そのような社会の変化の中で、あなたたちは竹という素材をどう考えますか、という面白いテーマを孕んでいませんか。

―まさに私たちの世代へのメッセージをダイレクトに感じます。

今までみんな、専門家に任せっきりで消費するだけだったけれど、ものづくりに参加する社会というのがこれからくるんです。これだったら自分で作ろう、自分でやってみよう、となっていきますよ。
それに、これぐらいなら自分でやってみようという社会基盤を作らないと、結局また工業化か、となってしまう。工業化は止まらないしテクノロジーは進むはずですが、どこかで人間が介在していく部分が増えていくに違いない。作られたものを使うより、作るほうが絶対楽しいんですよ。コロナになってみんなものづくりに触れる機会が増えて、作るのって楽しいなと気づき始めている。これからは買うだけじゃなく作っていくという、自分で生活をコントロールしていく文脈になるような気がします。

―竹のデザインは環境問題と密接に関わるものだと感じますが、デザイナーとして環境問題を改善するためにできるアプローチは他に何があると考えますか?

今回ばかりはデザイナーだったり、特定の誰かに向けた話じゃないんですよ。あなたが、という話なんです。
あなたの子供たちや未来のためにこれから何を選択しますか、と突きつけられている。ある種、自分がデザインとか社会に関わるチャンスなんですよ。
だからデザイナーとしてという問いよりも、あえていうなら一市民として何をすべきかということを言われているような時代なのでしょう。デザイナーは一市民として、仕事のデザインではなく市民派のデザインとして、あなたは何をしますかと言われているんです。


Profile

若杉浩一(わかすぎ・こういち)
武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授。地域とデザインの研究を行い、「日本全国スギダラケ倶楽部」を立ち上げるなど数多くの地域のプロジェクトを手がける。

Information

「BAMBOO DESIGN」~竹のデザインと未来~
■会期:2021年2月7日(日)〜3月4日(木)会期中無休
■時間:10:00~20:00(MUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス開店時間に準ずる)
■会場:武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス1FMUJIcom武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス内(東京都新宿区市谷田町1-4)
■入場料:無料
■主催:武蔵野美術大学
■協力:株式会社良品計画、パワープレイス株式会社、九州真珠有限会社、南臺科技大學(台湾)、インドネシア
■企画:武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科・基礎デザイン学科、造形構想学部クリエイティブイノベーション学科


取材・執筆・編集:デザイン情報学科2年 櫻井真奈

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