2020-08-03

歴史は10年!これまでのmauleafを振り返る。【後編】

前編に引き続き、後編では藤原ちからさんと加藤賢策さんに過去のmauleafの気になる特集のことや学生スタッフの印象を中心にお話を伺いました。


mauleafの存在を広くひらけたものに

櫻井:バックナンバーを見ると、ムサビのZINEを作っている人の特集や恋愛特集などのムサビ生から見てもマニアックな部分を特集してると思ったんですが、そういった企画は学生の方から出してきたりしてたんですか?

加藤:ZINEの特集号に関しては僕と藤原さんの興味がまずあったのかな。当時2人で下北沢に関するZINEを作っていたりしたので。そしたら学生も乗ってきてくれたんだと思います。恋愛特集は完全に学生の企画。これは学生が主体的になって構成から写真撮影までやってましたね。

藤原:これはすごかったですね。ムサビカップル対談みたいなのありましたね。

加藤:すごく盛り上がってたよね、これ作る時。

藤原:この号はやっぱり責任編集が学生の名前になっていますね。

加藤:すごくわかりやすくそうしましたね。明確に任せた気がする。

川又:その頃からは毎回企画とかはすぐに決まっていたんですか?

藤原:恋愛特集は、それいいねやろうやろうって感じだったかもしれないですけど、結構時間はかかってたかな。なかなか決まらない時とかはあって、そういう時はある程度ネタストックみたいなのがあったので、じゃあ次はこれやりますかっていう風にしていました。あと都市伝説特集もいつかやろうやろうって言っててやったんじゃないですか?

加藤:都市伝説号。実現しましたね。面白かった。

藤原:でも今覚えていますけど、恋愛特集号の前がDJぷりぷり[1]っていうアーティストを特集した号だったんですよ。で、これは保護者から批判のご意見が来まして。
この頃は直接メールで1、2通だけ、あとはtwitterでも批判はちらほらとありましたね。メールにはお返事を書いた記憶があります。
「お金と紙の無駄」とか「自己満足のデザイン」と言われましたね。でも保護者の方からしてみれば、いきなり家に謎の表紙の冊子が送りつけられてくるわけですから、なんなんだこれは、って思うかもしれないですよね。それできちんとご説明する必要があると思いまして、広報入学センターの方々ともしっかり話し合って、なぜこれを学生スタッフと共にやる意義があるのかっていうことをできるだけ丁寧にお返事しました。そのあとは何も言われなかったので、納得していただけたのかな、とは思っていますけど。
でもこの頃は面白かったですね。大分やりたいことやっていいっていう感じが学生スタッフの方にも出てきた感じはありますね。

加藤:そうですね〜。

櫻井:批判のご意見が来たときのお返事のメールにはどんな内容を書かれたんですか?

藤原:学生さんたちが美術大学に入って、そこで学ぶことの意味や、mauleafの方針について、お伝えしたと記憶しています。
企画によってはふざけているように見えるかもしれないけど、毎号mauleafで特集の企画を立てて、実現していくっていうのはやっぱり労力が必要で、アイデアを思いつくだけじゃなくて実際に形にしていく事はすごく大事じゃないですか。形にすることでこうやって物(冊子)としても残るし、関わった人の経験にものすごくなるので、それを積み重ねていくのは大事ですよね。まず関わった人にも大事だし、それを見る他の学生さんたちにとっても「あっこういうのアリなんだ、やっていいんだ」っていう選択肢が示されることはすごく大事だなっていうのはmauleafに関わっている間ずっと思ってましたね。
前編でも言ったように売れてナンボみたいな価値観もあると思うし、それを必ずしも完全に否定はしないですけど、そうだけじゃなくっていろんな可能性がある。それは人生の可能性もそうだし、アートの可能性も。そういう可能性を示すのはmauleafでもできることかなって思ってたんで、そういう事を書いたと思います。
だからマーウー対談[2]を賢策さんとやってたのも、あんまりしゃしゃりでたくないんだけど、学生と違う目線を入れるっていうことになってたのかなっていう気はしますけどね。

加藤:マーウー対談は、「今回の特集はこう見ると面白いよね」っていう視点を提示するために自然発生したコーナーだったと思います。特集記事を提示された通りに読むこともできるけど、テーマの読み解き方にはいろんな可能性があることを知ってほしいなと思って。そういう意味では、マーウー対談はmauleaf本体にとってのメタメディアになっているんですよ。

藤原:僕としてはスタッフも含めた学生たちに問いを投げかけたいと思っていたんですけど、それとmauleafって学内の広報誌じゃないですか。学内なんだけど、学外の人にも読めるようなものにしたいっていうのは最初からあったんですね。学内だとどうしても「あの人知ってる」とかがあるんだけど、学外とは全然通じる言葉も違うわけですよね。例えば僕は美術大学の出身じゃないので、最初視デって言われて何のことか全然わからないっていう。笑
デ情って何、みたいな感じから始まったんで、mauleafを学外の世界にも通じるものにしたいという気持ちは強くあったと思います。例えば学生が学生に取材するのは学内広報誌ならではの面白さがあるけど、「ムサビ」という閉じた枠の中のものにならないように、外部からの視点も入れたいなっていうのは思っていました。でもあくまでも脇役でっていう感じでしたけどね。

加藤:そうですね。

櫻井:学校からオフィシャルで出す広報誌というかたちではかなり尖っていますよね。

加藤、藤原:そうね〜。

加藤:そもそも美大で出す広報誌は尖っていないとダメなんじゃないか?って最初から思ってましたね。笑

藤原:でもよく毎号こんなにデザインを変えてやりましたよね。毎号新しい雑誌作るみたいな感じでしたよね。

加藤:なんかもう勢いで作れちゃうみたいな。笑

藤原:この辺スペース空いてるからなんか素材ないですかって賢策さんにすごくよく言われた気がする。それで学生スタッフが知恵を絞って追加で書いてくれたり。笑

加藤:「なんか言葉ない?」みたいなそんな感じですね。笑

良い意味で裏切られた美大幻想

川又:学生スタッフとの関わり方の質問と関係があるのですが、ムサビ生と関わっていい意味で驚かされた事や気付かされたことってありますか?

藤原:ほんといいスタッフさんに恵まれたなって思いましたね。変な話僕も美大出身ではなかったんで、当時は「ハチミツとクローバー」とか流行っていたこともあって、美大生に対する良くも悪くも幻想があったと思うんですけど、そういうイメージが良い意味で裏切られましたね。

加藤:美大幻想。笑

川又:あれ嘘ですよね。笑

全員:笑

藤原:だからmauleafは実際の美大生のリアルな声が聞けるっていう貴重な媒体だと思うんですよね。スタッフと毎回話してみて、イメージは裏切られたし、いい意味での野心を感じました。
また繰り返しになっちゃいますけど、当時の売れてナンボみたいな価値観が強くなってきている中で、それとは別の野心や価値観を持ってる若い人たちがいるってことがわかったのは嬉しかったんですよね。もっと複雑な事をみんな考えていたし、複雑であるがゆえに悩んでたと思うんですけど。単純に売れたいとか目立ちたちとか思えるんだったら、それはそれで突き抜ける強さを持てるだろうし、実際取材させてもらった学生さんたちの中にはそういう強さを持った人もいたと思います。でも僕は学生スタッフのモヤモヤが結構好きでした。モヤモヤ悩むのは学生の時はしんどいかもしれないですけど、あとでその苦悩がどう花開くか分かんないなって思います。mauleafで学生スタッフのみんなと作る中で、彼らのそういう部分を感じられたのは、僕には嬉しかったですね。

川又:今のmauleafでも、ああじゃないこうじゃないって話し合ったりする時間はすごい大事だなって思ってるんで、それが変わらずmauleafにあるのがすごい良いなって思いました。

藤原:三角関係は面倒くさかったですけどね。笑

全員:笑

編集・執筆:デザイン情報学科2年 櫻井真奈/取材:櫻井真奈、デザイン情報学科2年 川又彩伽


[1] 武蔵野美術大学出身。クラブDJ、イベント・プランナー、店舗経営者、カラーコーディネーター、モデル、興行師、など多岐にわたる活動を展開するアーティスト。

[2] mauleafでの藤原さんと加藤さんによる対談企画。ただし無記名で、マーくんとウーちゃんの対談として各号に掲載された。

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