2023-10-27

美大生はみんな魔法使い?ムサビの芸祭2023について実行委員長に聞いてみた

毎年10月に武蔵野美術大学鷹の台キャンパスで行われる芸術祭(以下、「芸祭」)は、年に一度の大きな催しであり、全国的にも有名な学園祭の一つです。コロナ禍を乗り越えて昨年から実地開催となりました。注目されるムサビの芸祭について、今年度の芸術祭実行委員会執行部(以下、「執行部」)の委員長である長野玲さんにお話を伺いました。

総勢300人、芸祭執行部の活動について

―執行部は芸祭の準備や運営にあたり多岐にわたって様々な活動をしていますが、一方で「“執行部”って何してるの?」と感じているムサビ生も多いかと思います。芸祭という一つのイベントを作るために、一年を通して具体的にどのような活動をしているのでしょうか?

まず、前年度の12月頃までには、執行部のリーダー的な存在である委員長や副委員長などの役職、執行部に属する全9部署の部長や副部長を決定します。また、新入部員を募集し、次年度のテーマを決めるところまでも前年度中に行われます。4月の入学式で新入生に向けて勧誘をし、5月あたりから企画参加者や展示・フリマ参加者のエントリーが始まります。そこから夏休みに入るまでは、建造物やオブジェ、装飾などの各種制作物はデザイン案を固め、出し物やパフォーマンスなどの企画参加系は審査などを経て企画内容とその参加者を確定させていく時期になります。制作も企画も、執行部は主に夏休みを使って全体の仕事を大きく進めていきます。それ以降の9月からは、本番に向けて最終調整や足りない部分を補っていく作業になります。

執行部メンバーはそれぞれの持ち場で芸祭の準備を進めています

―今年は1年生の新入部員がとても多いとお聞きしていますが、全体のリーダーという立場である委員長は、どのようにして部員たちをまとめているんですか?

執行部の構造としてはまず委員長、副委員長、書記、会計の四役と呼ばれる幹部がいて、9つある部署ごとに部長と副部長の役職がいます。そして部の中でもさらに班に分かれて活動しています。
何かを決定するときは、班の中で固まったものをまずは部長にあげ、部長に持ってきてもらったものを四役で確認する、という形がとられています。なので、例えば役職を持たない部員や入ったばかりの1年生が何かアイデアを出したい場合、まず班長を通し、次に部長、次は四役に…というように、各リーダーにしっかりと確認してもらうというプロセスを踏んでもらうことで、300人を超える部員を四役中心にまとめ上げることができています。主に中間のポジションがある程度まとめてくれているという部分が大きいと思います。

「作り手」とは違う視点から全体をまとめる立場

―では、長野さんが委員長になった理由を教えてください。

私は造形構想学部クリエイティブイノベーション学科に在籍していて、入試は学力試験のみで、特に絵の技術や何かを作る能力がないままムサビに入りました。1年生のときは執行部の広報部に所属して活動をしていたのですが、そこで「学生なのにこんなことができるんだ」と思うような人にたくさん出会ったんです。芸祭の3日間では、自分で制作したものを展示・販売したり、ステージでパフォーマンスをしたり、さらにその衣装や小道具も全て手作りだったりと驚きの連続でした。
私にとっては、周りはみんな特殊技能持ちというか…、魔法使いに囲まれている気分なんです(笑)。だとしたら、私は何もできないなりに、いろんな技能や個性を持った人が何百人といるこの環境で、超能力者たち全員の力をフルに活用できる場所を作りたいと思い、全体をまとめる委員長という役割に立候補しました。
自分が作り手という立場ではないからこそ、作る側の人たちを俯瞰して見ることができるというのも、今このポジションを選んでいる理由なのかなと思います。

制作物をつくる執行部メンバー

―芸祭を運営するという仕事について、楽しい部分と大変な部分について教えてください。

楽しい部分は、こういうものを作ると聞いてから実際に完成したものが上がってくるときです。「こんなものが作れちゃうんだ!」という気持ちになる瞬間。今年は去年と違って企画参加者も執行部も含めて全体を見る立場なので、その中ですごい人たちに囲まれているんだなと実感できるのが一番ワクワクしますね。
大変なのは、必ず最後には一つに決定しなければならないということです。自分自身がすごく優柔不断な性格なので、これもいいしあれもいいと迷ってしまうんです。最近になってようやく決断を下せる判断力と勇気がついてきたかなと思いますが、決めなければならない部分と、自分の優柔不断さの折り合いがうまくつかなくて、いつも唇を噛みながらやっています(笑)。

今年度の芸祭の見どころについて

―今年の芸祭も去年に引き続き実地開催で、コロナが落ち着いてきて出来ることが増え、飲食が解禁になったりと自由度が増してきたと思います。今年の芸祭の見どころについて教えてください。

2月に四役で「そもそも芸祭って何でやるんだろう?」という話し合いをしました。ムサビ生だけが楽しければそれでいいというものではないけれど、外のお客さんに向けてサービスとしてやるものでもない。そもそも芸術自体がサービスとしてあるものではないですよね。
でも、まずはムサビの学生が目一杯楽しんで、その様子が来てくださった人たちに伝われば、ムサビ生もお客さんも最大限楽しむという部分が両立できるのではないかと思い、そこを踏まえて今年の芸祭のテーマを決めました。
今年は去年よりも制限が緩くなり、よりたくさんの来場者の方がいらっしゃると思います。美大は普段外部の方は気軽に入れないけれど、中に一歩入ったらすごい世界が広がっている場所です。芸祭では、たくさんの個性をごった煮にしたような世界が外に開かれます。いろんな人が外から入ってきてムサビ生の様子に影響を受けたり、逆にムサビ生が外から来る人の影響を受けたりすることもある。そういった「内と外が混ざる瞬間」が芸祭の肝だと思います。

芸祭という催しは参加者の熱量、執行部が学生の力だけでやり遂げた企画や制作物など、とにかく人の作ったものに山ほど触れられる場なので、そこが美大ならではの面白い部分だと感じます。外のお客さんにムサビ生の姿や作ったものを思う存分見てもらえる絶好の機会であると同時に、二つの世界をつなぎ相互に影響し合う交点になる日だと思いますし、こんなにすごい人が何千人といる大学を普段見ているからこそ、私が日々感じているすごさをぜひみなさんに見てほしい!と思います。

―委員長の立場から、今年度の芸祭に向けた意気込みを教えていただきたいです。

去年よりも制限が解放されましたが、でもまだコロナは完全には消えていないという状況の中で、とにかくできることを最大限やりたいなと思います。私の目標は執行部員も企画参加者も、全員に芸祭に関わってよかったと思ってもらうことで、それを達成したいというのがこの芸祭に向けた意気込みです。

―執行部や企画参加者によって毎年さまざまな企画が行われると思いますが、今年も楽しみですね。

そうですね、今年もいろいろな企画やステージが開催されるので楽しみにしていてください。美大という自由な環境だからこそ、「こんなのやっていいんだ、やるぞ!」という熱量がすごいですよね。あれだけ頑張ったから絶対に糧になったと自分も思いたいし、みんなにもそう思ってもらえるような終わり方をしたいと思います。
委員長である私の口から執行部ってすごい!というと自画自賛みたいになってしまいますが、300人を超えるこの芸祭執行部という団体は本当にすごいことをやっていると思います。自分以外はみんな超能力者に見えるといいましたが、美大という環境もあって本人たちにはその自覚がないんですよ。絵を描くのが上手かったりデザインができたり、みんなのできることは本当に特殊なことなんだよ!と伝えたいです。

2023年度の芸祭ポスター

委員長の長野玲さんへのインタビューを通して、芸祭というものが本当に学生の力だけで一から作られていることのすごさ、芸祭が全学生の何かを作りたい!というクリエイティブなエネルギーに目一杯触れられる催しであることをあらためて実感しました。今まで芸祭にあまり興味のなかった人たちや、芸祭をまだ経験していない1年生にも、ぜひこの機会に芸祭を楽しみ、いろんな部分に目を向けるきっかけにしてほしいと思います。

■2023年度 武蔵野美術大学芸術祭オフィシャルサイト
https://geisai.jp/

■武蔵野美術大学芸術祭SNS
Instagram https://www.instagram.com/maugeisai/
X(旧Twitter) https://twitter.com/MAUgeisai/


編集・執筆・取材:デザイン情報学科2年 高橋雅

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