美術系✖️理系の融合を体現するサークル「IML」の魅力
調布市にキャンパスを構える電気通信大学(以下、「電通大」)は、理工学や情報学に力を入れ、「人類の持続的発展に貢献する知と技の創造と実践」を目指す国立大学です。同じく武蔵野の地に位置するムサビとは関わりが深く、2017年には連携教育や学生交流などの教育研究に関する協定を締結しています。電通大のものづくり・研究サークル「IML(Interactive Media Laboratory)」では、電通大生とムサビ生がそれぞれの専門分野を活かし、研究開発や研究実用化に向けた活動を行っています。
理系と美術系の融合を目指して
人とコンピュータの関わり合い、すなわちHCI(Human-Computer Interaction)分野を楽しく本格的に研究していくことをコンセプトとして、2015年に立ち上げられた学生サークル「IML」。電子工作を使用した電通大とムサビの共同のものづくりを推進し、学会による研究成果の紹介や論文発表の機会が得られる魅力満載のサークルですが、コロナ禍には活動の縮小を迫られ、ムサビとの連携も困難な状況となりました。2023年現在、苦境を乗り越えたIMLの活動は、まさに分岐点に突入しています。
現時点では数少ないムサビ生メンバーとしてIMLの活動に参加する、造形構想学部4年の千葉桃子さんと、同じチームに所属し共同開発に携わる電通大Ⅲ類物理工学部3年の石井万里さんにお話を伺いました。
—お二人がIMLに入部したきっかけと、活動内容について教えてください。
石井万里さん(以下、「石井」):私は入学したての4月に入部しました。IMLの魅力はまず、手厚い講習会と期間ごとの明確なカリキュラムです。前期に講習会があるため、電気工作に詳しくなくても安心して参加できると思いました。夏休みにはプログラミング講習を受けることができます。後期からは4人ほどのグループに分かれて、それぞれのプロジェクト開発に向けたアイデア出しが始まります。もし1年生から入部すれば、通常は参加できないような学会や発表会で論文に名前が載る機会もある。同じ大学で知らなかった人と顔を合わせる機会にもなり、私にとってはやりたいことと合致しているサークルでした。
千葉桃子さん(以下、「千葉」):私は2020年のコロナ真っ只中にムサビ に入学し、同じ学科の友達に誘われて入部しました。特に深く考えずに入りましたが、4年目の今も続けているので、やはり自分に合っていたのかなと思います。ちょうどコロナで活動がオンラインに切り替わり、オンデマンド配信で空いた時間に講習に取り組めるようになったのは、通うのに時間がかかる自分にとっては魅力でした。
制作いろいろ裏話
お二人は同じグループのメンバーとして共同で作品を制作中です。ぜひ見てみたいとお願いしたところ、部室の奥から出てきたのは、何やら大きな……コップ?
—これはなんでしょうか?
石井:まだプロトタイプ段階なので、実物制作に着手する際には、普通のサイズに縮小する予定なのですが……これはワイングラスです。でもただのグラスではないんです!光を発するグラスの側面がディスプレイになっているので、飲みながら映像を楽しめます。
—ワイングラスがディスプレイ……?なんだか斬新すぎる(笑)
石井:グラスに液体を入れ、飲む人が中の液体を除くとセンサーが感知して、ディスプレイの映像が切り替わります。液体の量やグラスの角度によって切り替わるタイミングが決まるので、飲んでいる人の動きに合わせてストーリーが流れていくイメージです。また、現時点では映像が3種類ありますが、いずれもロマンチックな気分で堪能できる、ファンタジーなディナーをコンセプトに制作しています。
—設定が細かくてびっくりです。またイラストがわかりやすくて可愛い!!
石井:このイメージ図は千葉さんが描いてくれたもので、実際に論文に載せました。使い方の図面を2コマで表すのは大変だと思いますが、実にわかりやすい。さすが美大生。
—よく考えると、やはり理系と美術系が共同で取り組めるのは貴重な機会ですよね。他にも、お互いの個性や魅力について実感したことはありますか?
石井:普段それぞれの大学で学んでいることが制作のアプローチにも現れていると思います。電通大生は理論として設計技術を「学ぶ」のに対し、ムサビ生はおそらく柔軟な発想を活かして「実践」する。私の場合は設計の微調整を繰り返して完璧なものに近づけてから立体に起こしますが、千葉さんは途中段階でも臆せず次々と形にして、プロトタイプを持ってきてくれるので、逆にイメージが掴みやすいなと。今までになかった考え方でした。
千葉:まだアイデアとして形になりきっていない時でも、とにかく実践してみるのはやはり美大生の特性ではないかと思います。実験してみてその都度成果を体感する。例えば、今回のワイングラスについては、具体的な形が決まる前にガラスの質感のプロトタイプとして100均で買った金魚鉢にやすりをかけてみて、それを参考に修正しながら制作を進めていきました。
石井:金魚鉢にやすりは私たちにはなかなか無い発想で、持ってきてくれた時は本当に面白かったです(笑)
—すみません、私も一応ムサビ生ですがその発想は出ないです…!
石井:とにかく、美大生はなんといっても引き出しが多い。電通大生は、技術面に関する仕事がやはり得意で、図面作成やプロトタイプ制作、装置のプログラミングなどには長けているのですが、アイデア出しやイラスト図解など、クリエイティブな要素や発想力が必要な場面で行き詰まったりする。そういう時に、千葉さんに助けられたことは何度もありました。
千葉:それは嬉しいです。確かに自分でも、アイデア出しには貢献できていると感じます。逆に、論文に添付するような設計図などの図面については、構造のわかりやすさが第一で、既存のソフトにある図形を駆使した、デザイン性がないものの方が好まれたりするのでなかなか難しいですね。意識せず立体にパースをつけちゃって、わかりにくくて注意されることもありました(笑)
—それは美大生ならではですね。
千葉:話し合いの時、石井さんは自分の専門外のアイデアでも常に耳を傾けてくれて、活かし方を一緒に考えてくれるので本当に嬉しいです。このワイングラスも元はといえば、「気分転換に山で美味しいスープを飲みたい」という私の何気ない発言がきっかけとなって、形を変えてここまで発展しました。チームの中でお互いに協力して和気あいあいと取り組めています。
—チームワークの大切さをひしひしと感じます。
石井:できた作品は論文や学会で発表したり、電通大の学園祭や学内コンテストでお披露目する機会があるので、共同で取り組んだ達成感が感じられるのも魅力です。このワイングラスも完成したら展示することになっているので、それを楽しみに制作に励んでいます。
IMLのこれから
—完成が楽しみですね。最後に、IMLに入って特に勉強になった事や、今後の展望について教えてください。
千葉:私は今までプログラミングについては全くの初心者でしたし、今のところプログラミングに関わる将来を思い描いている訳ではないのですが、このプロジェクトを通して親しみが湧きました。プログラミングを制作の手段の一つとして考えられるくらいにハードルが下がったのは、ありがたく感じています。また、複数人でプロジェクトをする機会はムサビでも学外インターンでも多々あるのですが、その際に自分がどんな立ち位置で役に立てるかを学びました。私の場合は全体の取りまとめや進行管理などよりも、立場の異なる考えを繋いだり、議論に幅を持たせる役割が合っていると思います。今後もそれらを強みに卒業制作や就職先で活かしていきたいと考えています。
石井:本当にその通りで、千葉さんはグループで架け橋になってくれる存在です。私はもともと電子工作やプログラミングの講習をやりたくて入ったので、それらの技術を得られたのはもちろんですが、「研究とは何か」を本格的に考えることができたのもこのサークルに入ってよかったと感じることです。さらに、自分の大学で他学部と知り合う機会が生まれ、HCI分野においても人脈が広がったのは大きな強みとなりました。
コロナ禍での活動縮小を乗り越え、IMLでは今後は子どもたちにプログラミングの楽しさを伝えるワークショップなど、教育面においても活動を拡げていく予定です。電通大生とムサビ生の異なる分野の強みを融合して、今後も連携を強めていきたいと考えています。IMLの活動に興味のあるムサビ生を、電通大生一同お待ちしています。
—お二人ともそれぞれに、IMLでの活動を今後の自身の活動に活かしていくイメージが伝わり、IMLへの強い愛を感じました。ありがとうございました。
石井・千葉:ありがとうございました!
同じ大学でも普段は関わりのない市ヶ谷キャンパスのムサビ生と、身の回りでは知り合う機会の少ない理系学生へのインタビューは大変盛り上がり、貴重な経験ができました。初めて電通大に足を踏み入れ、目にした機械や部品、プロジェクトで制作した作品のクオリティに驚きつつ、制作の裏話やIMLへの想いを聞くことができ、私自身も入部してみたくなりました。さらに、教育事業にも繋げていきたいとの展望を聞き、小学生向けのプログラミング講師を担当する私にとっては、ますます興味が深まり、今後のIMLの活動を楽しみに感じています。ものづくりに興味のあるムサビ生のみなさんは、ぜひIMLに参加してみてはいかがでしょうか。
『IML—電気通信大学インタラクティブメディアラボ』
電通大産学官連携センター主催 「ベンチャー工房」帰属・Human-Computer Interaction系研究開発サークル
http://imedia-lab.net/
編集・執筆・取材:油絵学科版画専攻3年 横山日南