2020-07-29

『おうちでアトリエ』 vol.1 「コロナ禍限定自宅廊下アトリエ」

弟さんに撮影していただいた制作風景

『おうちでアトリエ』vol.1のゲストは、筆者がツイッターで見かけたこの画像をきっかけに取材に至った。

コロナ収束に向けた入校禁止をきっかけに、自宅内での制作時間・環境を確保しなければならなくなった学生が多いのではないかと思います。

この連載『おうちでアトリエ』では、ムサビ生の自宅での制作環境を取材し、学科学部・作品スタイルによって多様多種に異なるこだわりから、やっぱり自宅だと物足りないと思わせる大学の設備・環境までをお伝えしたい。

大学のアトリエを使えない苦悩、そして不幸さからの足掻きが滑稽さを伴って伝わってくる。素晴らしいツイートだ。
このツイート主である、佐藤絵莉香さんにリモート取材をさせていただいた。


①所属
大学院 修士課程 油絵コース1年

②名前
佐藤 絵莉香

③場所
玄関からリビングの扉までの間

④こだわり
壁に貼ったドローイング、玄関の棚に飾った進行中の絵

⑤大学で好きな場所
絵画組成室・鯉の池

⑥大学内の制作場所
2号館の4階の大学院の大部屋アトリエ


zoomでのインタビューの様子

応援してくれてる家族だからこそできた制作場所だなと思います

まず、ここってどこですか?

実家です。

父親と母親と私と弟の家族4人で暮らしてます。

ここで制作するに至った経緯を聞かせてください

ムサビの近くにあるアトリエを数人で借りてたんですけど、

学校のアトリエが22時くらいまで使えてたんで、あまり使わないなって思って、1月くらいに解約しちゃったんです。

でも展示の予定が今年の後半にあって、制作しなきゃいけないって状況なのに場所がないってことになって、借りるお金もないし。

制作できる場所っていったら実家でどうにか頑張るしかないっていうところから、

当分大学には通えない状況を受け入れなければいけないなって4月くらいに思い始めました。

うち、部屋がリビングと寝室とキッチンくらいしかなくて、親はリビングにいるし、弟は寝室でオンライン授業とかしてるんで、ここの廊下のスペースしか場所がなかったっていう。すごい苦肉の策というか。

玄関のそばで、ドアがあるって状況で、あれなんですけど、慣れました。

ご両親の前で制作ってどうですか?

私はもともと小さい頃から絵を描いてた人間で、小学校の時から描いた絵を貼ったりしてた姿を親も知ってるんで、別に何も言わないってか、珍しがらないのはいいんですけど。

大学入ってからの絵とかは、小さい頃描いてた感覚とちょっと違うなって思って、ちょっと、やりづらさはありますよね。普通に。

廊下での制作に関して家族会議とかってあったんですか?

まずオンライン授業が始まるって決まった時に、
テーブルとパソコンをここの廊下に設置するところから始めて、

そのあと玄関とパソコンの間を制作スペースにするっていうのを親に話しました。

そしたら「ちゃんと片付けてね、汚さないように」って言われて、了承を得ました。

佐藤さんに描いていただいた見取り図 

ご両親、優しいですね

寛容だと思いますね、私の制作に関して。

弟も優しい性格なので、何も言ってこないです。

そういう応援してくれてる家族だからこそできた制作場所だなと思いますけどね。

普通は言われたりするんですかね。

この制作場所はどうやって作ったんですか?

まずプチプチの梱包材を床に敷いてます。壁は、もともと卒制の時とかに展示室のアトリエを汚さないために買ってたマスカー(マスキングテープと養生シートを一体化させた養生資材)を貼っています。

場所作りって大事だなって思ってます

実際始めてみてどうでした?

自分、テレピンっていうシンナーみたいな匂いがする揮発性のすごい油を使うんですけど、それって換気しないとすごい体に悪くて、まずそれの問題があったり。

あと、ここで最初に油絵を描いた時に、数年ぶりにゴキブリが出まして。

それからちょっと、私の油のせいだよってなって肩身が狭くなったっていう、そういう障害もあって、大変ですよね。

換気とかはどうしてるんですか?

廊下なんで、窓とかがないんで、気持ちトイレとか風呂場の換気をして、

あとは、玄関の扉が開けば換気できるかなみたいな。

慣れてない人がずっといたら気持ち悪くなるんだろうなってくらいのヤバさだと思うんですけど。

大学のアトリエだったら換気できるし、もともと制作場所じゃないところを無理やり使ってるんで、まあ、そういうところは向いてないですよね。

ここで制作してみて換気の大事さに気づきました。

制作時間に変化はありますか?

短くなりましたね。学部の時とかは、月~土で、私は社長出勤だったんで、夕方に来て22時まで制作って感じでずっと制作してたんで、それに比べたら、今は毎日描くほどのモチベーションも難しくて。

制作してる人たちがいる環境だとやりやすいなと思うんですけど、

普通に家族たちがくつろいでる中で自分1人制作するっていうのは難しいし、色々な誘惑が多いから、よく寝ちゃってて今。

結構、怠けちゃっててやばいなと思ってるんですけど、ちょっとずつ感覚を取り戻していかなきゃいけないって状況なんで、どうモチベを保つかっていうのは、試行錯誤してる状況ですね。

ここでの制作時間帯はどんな感じなんですか?

バラバラですけど、夜中家族が寝静まった時、ここでもくもく作業するとかって感じですね。

昼間もたまにやったりするんですけど、夜の方が静かなんで集中しやすいってのはありますね。

朝の5時半くらいに父親が出勤するので、その前に場所を空けなきゃいけないのですが、

普通に4時くらいが結構限界なんで、眠くなったらやめるとか、描くものがなくなって満足したらやめることが多いです。

現在進行中の作品はありますか?

ドローイングとかは最近描いてて、数分とか数十分くらいでできるんで。

油絵は玄関の棚に置いたりして、飾ってあるんですけど、飾った状況で1回絵を冷まさなきゃいけないなと思って、考える時間が欲しいなと思って途中の状況で置いてます。

そろそろ描かなきゃって状況なんで、また手を加えるって感じで。

油絵は結構未完成なものが多いですね、今は。

玄関の棚に置いてある様子

この制作スペースの好きなポイントはありますか?

廊下なんで、玄関の棚とかがすごい良い場所だなって思って、棚に絵を飾るっていうのが楽しい。

あと、ドローイングとかを一定の壁のところに貼るんじゃなくて、いろんなところに貼ってみるとか。ドアとドアの隙間とか扉のところに貼って楽しむ。

そういうことをやることで自分の色に染まってくっていうか。

すごいくつろげる場所、制作する場所になるんで、場所作りって大事だなって思ってます。


貼ったドローイング

大学のアトリエから家での制作環境に移ったことは作品に影響を及ぼしますか?

私の理想としては、作品を売ったりして、買ってくれた人たちの生活の中に取り込まれる・一部になることが理想なので、そう思うとこれがすごいリアルなのかなとは思うんですけど。

展示として作品を見せる場も欲しいとは思うので、アトリエとかのホワイトキューブみたいな空間の方が絵画は作品として見やすいと思います。

アトリエだと壁にネジを打ち込んで掛けたりできるけど、家だとそれはできないんで。

でも私はもともと、作品で地元の風景とかをモチーフにしてることが多いので、家にいた方が絵を描く上での情報は得やすいなと思います。

大学で使用していたアトリエの様子

コロナ収束後もここでの制作は続けますか?

継続したくないと思います。

アトリエが再開したら、邪魔なのもあるんで、片付けたいです。

家はプライベートなくつろげる場所であって欲しいので、あんまり制作は持ち込みたくないっていうのがあって、家で作業する時間はなくてもいいなって思ってます。

家とかでできる展示方法とか、そういう、新しい発見があって

ここで制作するのが終わったとしても、今後に影響しますか?

家とかでできる展示方法とか、そういう、新しい発見があって。

ここの廊下はドアが多いんですけど、ドアノブとかにキャンバスを掛けたりして、擬似的に絵画を浮かせてみるとか。

このときの発見は大学のアトリエでも使えるのかなとか。

インスタレーション的な感じだと思うんですけど、こういう環境自体が絵画を見る場所ではないので、描くだけじゃなくて、別の思考も必要になってくるっていうのはあるので、

ここで展示を考えることはすごい今後も使えるっていうか、有効活用できる学びにはなるかなとは思いますね。

絵画をドアノブに掛けた状態

ドアノブに掛けたのは家族に見せたりしました?

夜中にコソコソやって「掛けれた!」とか1人でテンション上がってるだけなんで、秘密基地みたいな感じで自分だけが楽しむっていう。

環境に合わせて自分がどう楽しめるかっていうのが、秘訣だと思います

大学が始まったらまず最初に使いたい設備とかはありますか?

油絵科は絵画組成室っていう、いろんな支持体を作れる場所があるんで、そこを使いたいなー。

そういう場所が使えないのは本当に油絵科生は痛手だなって思う。

あとは図書館とか。イメラとか。やっぱり家だと情報量が本当に少なくて。

あとまあ、鯉の池とか好きなんで。

なんかその前でぼーっとする時間があって、自然がある場所っていうか。なんか、リラックスできる場所だったなーって思いますよ。

絵画組成室って始めて聞いたのですが、どんな場所ですか?

使えるのは、油絵科生だけなんですけど、2号館の4階にあってすごい便利な場所なんですよ。

木材を切るカッターを使って自分でキャンバスを作ったり、

世界堂で買うよりも安く、木材とかキャンバスの布とかオイルとか、油絵に使う画材が売ってて、蛇口をひねるとオイルが出てくるバケツみたいのがあって、自分の瓶とかに入れるんです。

すごい破格で売ってて、油絵科のコスパがすごい助かってる場所なんですよね。買いだめとけばよかったなって思いますね。

最後に、今後同じように家でアトリエを作る人がいたらアドバイスはありますか?

実家だとやはり大変だと思う。同居人がいるわけで。

スペースを見つけることから始めて、そこをいかに制作場所に持ってくかっていうのが大事だと思うんで、極論言ってしまえば、トイレとかでも頑張れば制作場所になるっていうか。

自分もこんな廊下でも頑張れば作業できるじゃんっていう感じなんで、

最初はストレスに感じるかもしれないけど、案外やってみれば楽しくなるっていうか、楽しんだ方がラクっていうか。

やっぱ環境に合わせて自分がどう楽しめるかっていうのが、秘訣だと思います。

佐藤 絵莉香

大学院 修士課程 油絵コース1年

2020年9月に東京で個展を開催予定。

会期未定だが長野で開催予定の木曾ペインティングス2020にも参加予定。

Twitter:@art_penta

https://twitter.com/art_penta?s=20

編集・執筆・取材:映像学科4年 門田亜里砂

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