2021-02-24

きっかけの記録

オンラインで気づいた人と繋がることの大切さ

 コロナによって世界のあり方が変わり、今までの “ふつう” が通らなくなってしまった。何気ない話をして、いろんな人とコミュニケーションを取って、それが普通で当たり前だった。そんな当たり前はひっくり返され、このコロナという出来事は私にとって、人とのつながりを見つめるきっかけになった。普段友達と話せるどうでもいいようなこと、なんとなく集まって楽しく流れる人との時間は当たり前ではなくて尊いものだったことに気付かされた。

 本当に大切なことはなんなのか、人と繋がれることやコミュニケーションの大切さ、そこから生まれる広がり、コロナがなかったら気がつけなかったこと、得られなかったこと。

 実技を中心に対面授業も行いながら、コロナ禍でも普段の生活をとりもどしつつある今、2020年度前期の授業について振り返ってみる。コロナがあったことで気づけたこととそこから見た自分なりの考えを、忘れないために記録する。

 学校がやっと始まったのはゴールデンウィーク明け。私の属する工芸工業デザイン学科2年生の最初の授業は、コロナによるスケジュール変更でできた新しいものだった。完全オンラインのZoom授業。どんな風にして授業が進んでいくのか不安もあったけれど、始まってみると意外と慣れるのは早かった。ただ、人と人とが同じ空間を共有できる学校とは違い、オンラインは “ミーティングを退出” するとプツンと空間が切られてしまうような、変な孤独感が残るような、人との交流のしにくさが気持ちわるかった。

 授業終わりの延長線上に「アフタートーク」がいつからか始まった。それは助手さんやTA(ティーチングアシスタント)の方、講師の方などが授業の後にそのままZoom上で雑談をしているだけの時間。そこには私たちが授業後に会話をしているのと変わらないふつうの時間が流れていた。Zoom授業になってから、なかなかしにくかった雑談というなんでもないようなもの。けれどその雑談の中には何か大事なことが見え隠れするようなものを持っていた。そして講師の方たちがなんとなく話す雑談も、時々学生も絡んだやりとりも、何気ない会話は人との繋がりを、コミュニケーションの大切さを感じさせてくれるものだった。

 アフタートークは助手さんやTAの方々が主に会話していて、いろんな経験や体験談、考え方などの話から、こんな面白い作家やデザイナーがいるといった話、学生からの相談に答えるなど、いろんな話が飛び交い、普段学生同士だけの会話では聞けない多くの面白い視点や考え方に触れた。その時間が定着してくると、面白い話が聞けるという感覚で一定数の学生が残り、ミュート型参加でラジオのように聞く人が多かった。そこにはオンライン授業ならではの人とのつながりがあった。それはなんだか面白いことで、制限のあることをマイナスではなくプラスに、柔軟に変換させていったことが、ただプツンと切れてしまうZoom授業ではなく、広がりをもつ時間になったのだと思う。

 そうした繋がりは自分にはない考えや価値観に触れる機会になって、そこに共感したり、自分なりの考察が入っていくことでまた考えを深めることができる。それは人と人とが繋がることが生む作用のようなもので、繋がりは広がりを持つものなんだということにも気づくことができた。

 私が特に記憶に残っているのは、この授業最後のアフタートーク。講評後なのもあって特に活発になった回だった。私もせっかくだしなにか聞いてみたいと思って、その時考えていたいい作品ってなんだろうってことについて聞いてみた。

「絶対的なものがないからこそ、どういう理由でそれが評価されているのかを知って、それを自分なりに噛み砕いていったものを蓄積させていくしかない」

「人がどうしていいと思ったのかに興味を持つことは大事で、そこから自分の作品にも取り入れる要素はたくさんあるから積極的に聞いていくべき」    

「自分がその作品を好きか好きじゃないのかとか、どう捉えるかをはっきりさせていくことは自分の判断材料になる」

 私の質問がざっくりしたものだったけれど、助手さんたちはちゃんと丁寧に返してくれた。そういう意識で他の人の作品を見れたら、自分のフィルターだけじゃなくて、もっと深い目で作品がみられるようになるだろうと思った。それは私にとって、とても大切なことで意識していこうと強く思っている。けれどなぜかその時はすぐに理解が追いつかなくて、返してくれたことへの反応がちゃんとできなかったことをとても反省した。その時の会話はアーカイブに残してくれていたこともあって、後から聞き返すことができた。それを聞き返すとよくわかって、すごく大事なことを聞けたと思った。それはこちらから問いかけがあって初めて返ってきたことで、聞かなければ何も得ることはできなかったこと。コミュニケーションを広げていくのは、そこからいろんなものを得ていくのは、自分次第なんだ。そう気づくことができた。

 その時のアフタートークは学生もみんな話し足りないくらいたくさん喋って意見交換をして、考えを深められる回になった。そんなふうにオンラインでも活発に話ができたのは講師の方々がいつもラフにアフタートークという雑談をしてくれていたからだったと、今振り返って思う。

 こうした体験は人とコミュニケーションを取ることの大切さに気づくきっかけになった。話してみないとその人がどんな考えを持ってデザインしたり活動したり生活しているのか、何を大切にして自分の軸にしているのかなどを知ることはできない。だからいろんな人と関わっていろんな人といろんな話をしてみよう。気軽な心構えでいれば自分を取り巻く輪が大きくなっていく、そうしていけばもっと柔軟に物事を考えられたりいろんな視点で物事を捉えられる。当たり前のことのようだけど、オンライン授業があったからこそ気づくことができた。

 この授業を通してたくさんの気づきがあった。その気づきは私にきっかけを与えてくれた。今回感じたことをただの出来事として忘れてしまわないように、今ここに記録している。

 目まぐるしく変化する世界の中でムサビ のオンライン授業を受けた一人の学生の体験に過ぎないけれど、この記録が、私にとってはもちろん他のムサビ生にもどこかの誰かにも、世界のあり方の変化を柔軟に捉え行動や意識を変える、そんなきっかけの記録になればと思う。

執筆:工芸工業デザイン学科 2年 武藤結実

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