2023-09-27

みんなで作る「Ma」 ムサビを最大限に利用し尽くす

2023年6月8日、市ヶ谷キャンパスに大学と社会を結ぶ新しい試みとしてコワーキングスペース「Ma」が開設された。キャンパス内でのコワーキングスペースの開設は美術大学では初めての試みであり、若手クリエイターのコミュニティの形成やその支援に力を入れている。
今回はそんな新たな取り組みに中心的に関わっている人物、武蔵野美術大学デザイン情報学科出身のクリエイティブディレクター 萩原幸也さんにお話を伺った。萩原さんは大学を卒業後、リクルートに入社。コーポレート・サービスのブランディング・マーケティングを担当し、本学のソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員も務めている。ムサビで学び社会で活躍している萩原さんは、どのような思いを込めてこの施設を作ったのだろうか。

みんなで作っていく「Ma」

―まず始めに、「Ma」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

元々この市ヶ谷キャンパスの7階スペースをどう有効活用しようかと考えていました。その時にもっと大学と社会が連携していくコミュニケーションの場みたいなものがあったらいいよね、という話になって。それをどう実現していこうかと模索していく中で、このコワーキングスペースの案が上がってきました。このような施設を作る計画自体は元々あったのですが、改めてどう形にしていくか、僕も関わって検討して初めてできたという感じです。

―なるほど。ここを開設するにあたって、萩原さんはどのようなことを担当されたのですか?

まず、場所のコンセプトと合わせて「Ma」の名前を考えました。ここには「大学と社会の『間』」というコンセプトがあります。大学を出てフリーランスになって社会に旅立つタイミングでみんながここを活用してくれたらいいなと考えました。大学にある施設なんだけど、社会にはみ出ている空間というか。そういう意味での「間」という名前でもありますね。あとは、ムサビの教育理念にある「真に人間的自由」からとった「真」、そしてどんどん自分が磨かれていく空間にしたいという想いから「磨」という名前をつけました。あと、これはあまり言っていないのですが、”Musashino Art University(MAU)” の「University」を抜いた時の「MA」というのを、コンセプトを考えながらふと思いつきました。社会と大学の中間にある「間」がここにあって、その2つが交わって新しいものが生まれるところにしたいと考えています。

―「Ma」にはさまざまな意味や想いが込められているのですね。この施設を作るにあたって、萩原さんが特にこだわったところはありますか?

今ここはただ椅子や机が置かれているだけというスカスカな感じですよね。ですが、今後はここに入ってきてくれたクリエイターと一緒に空間を作っていけたらと考えています。例えばこんな家具が必要だね、とか、みなさんが作った作品を棚に飾ったり、勝手に本を置いていったり。みんなで共創して育てていく場所にしたいですね。最初から完成された空間を作るのではなく、入居したみなさんと一緒に良い空間を作っていけたらと思っています。最初は1番シンプルな形で、どんどん手を加えていくという風にしたいんです。名前の由来にも関係していますが、みなさんで作っていけるくらいの余白(間)があるこの空間が気に入っています。

武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス7階にあるコワーキングスペース「Ma」と萩原幸也さん

作る人を支える側になる

―「Ma」のこだわりをお聞きして、この施設はもちろん萩原さんはクリエイターの支援にとても力を入れていらっしゃると感じました。そのように「作る人たち」を支えようと思ったきっかけは、学生時代を振り返ってみてありますか?萩原さんはどのような学生でしたか?

僕はもう、完全に芸術祭しかやっていなかった人間ですね。ムサビに入学してすぐに芸術祭実行委員会執行部(以下、「執行部」)の募集ポスターを見つけて。中学・高校でも「○○長」みたいな、みんなをまとめる仕事をずっとやってきました。だから、自然な流れで執行部の説明会に行ってみたんです。そしたらそこには面白い人たちが沢山いたので、1年生の時に芸術祭の模擬部の部員をやって、2年生で実行委員長をやりました。ただ芸術祭の参加者が3,000人を超えているのに対して、当時の執行部は40人くらいしかいなくて大変でした。一般大学の学祭は、模擬店とかはあるけど展示はないので企画側の参加者はそこまで多くならない。でもやっぱりムサビは美大ですから、展示や催しなど企画がたくさんあるんです。そこで僕が2年生で実行委員長をやったときに部員の募集に力をかけて130人ほど集め、同時に執行部の組織の形も変えたりしました。その時に、学生やクリエイターのために働くのが面白いと思ったんです。

―ムサビの芸術祭をまとめる側になったことが今に繋がっているのですね。

はい。1番印象に残っていることは、飲酒の問題について奮闘したことですね。学生側としては芸術祭でお酒が飲みたい。しかし問題も沢山あって大学側からしたら「NO」なんですよ。そこで執行部員の先輩方といくつか新しくルールを作ったんです。一部の区間でしか飲んではいけないとか、未成年が飲まないように身分証を確認するとかね。お酒の話に限らず、展示をしたい、パレードをしたいといった企画も基本的にはルールの中で行わなくてはいけない。そのルールを作り実行する中で、学生側から批判の声も上がって板挟みで大変でした。でも、やっぱり美大にいる学生たちって可能性がいっぱい詰まっている。それをなんとかいろんな人に届けたいと思ったんです。表現というのは、見せ方や届け方を考える人間がいないとできないことも沢山ある。僕は、作る側というよりも、ものを作っている人たちのことを見せる側の方が楽しいなと思ったんです。それは社会に出てからもずっと思っていることですし、この「Ma」というクリエイターを支える居場所を作ったのもその気持ちが1番にありますね。だから、もし活躍する場がないというのであればこの場所を利用して欲しいですし、企業や行政など学外から大学に来る相談も、そんな人たちと実現していけると楽しくなるかもしれない。そういう機会を沢山回していきたいんです。

ムサビを最大限に使って欲しい

―学生時代の経験が今の活動に大きく影響しているのですね。そのような経験というのはとても大切になってくると思うのですが、萩原さんから今のムサビ生たちへメッセージをお願いします。

このようなスペースもそうですが、みなさんにはムサビを最大限に利用し尽くして欲しいと思っています。使えるものはなんでも使って欲しいですし、色んな授業を見て欲しい。面白い先生も沢山いますから、別の学科だろうが積極的に研究室をノックして話を聞きにいったりね。学生だから、ムサビだから許されることやできることがいっぱいあるはずなんです。このスペースも、卒業した後に使う機会があったら使ってもらえればいいですし、イベントを開いたりもしているので、色んな人と関わる機会に参加するというのもありだと思います。大抵の人は大学を卒業すると縁が切れてしまう。しかし、このような施設や大学の繋がりをうまく活かしていければ、可能性もどんどん広がるはずですよ。

コワーキングスペース「Musashino Art University Co-Creation Space -Ma-」
https://ma.musabi.ac.jp/


編集・執筆・取材:日本画学科 3年 伊藤もも

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