2022-02-18

ムサビ生×中央線 ―学生のデザインが公式グッズに!?―

C&M(Graphic Store by Chuo Line&MAU)は、JR中央線コミュニティデザインと武蔵野美術大学による産学共同プロジェクト。ムサビ生の作品をプリントしたオリジナルグッズを商業施設で展示し、それらをオリジナルグッズ通販サービス「SUZURI」内のストアで販売するショールーミングストアにチャレンジしています。

第1弾では、学生6人のグッズをセレオ八王子で展示。第2弾では、学生8名が JR東日本の特急や急行で使用されていたヘッドマークなどをモチーフに制作した鉄道グッズをセレオ国分寺で展示しました。

第1弾のセレオ八王子でのショップの様子。
第2弾のセレオ国分寺でのショップの様子。

今回は、第2弾に参加した筆者が JR中央線コミュニティデザイン地域活性化部の山口剛さんと村松美桜さんにインタビュー。プロジェクトの裏側やC&Mの今後についてお伺いしました。


C&Mが生まれたきっかけを教えてください。

山口剛さん(以下「山口さん」):以前、武蔵野美術大学の学生さん(以下、学生さん) と一緒に行った制服デザインプロジェクトのディレクターを務めたディーランドの酒井さんから、MAU bdp(ビジネスデザインをテーマとしてさまざまな企業と学生さんが協同でプロジェクトを作り上げていくプログラム)のプログラムパートナーとしてお声がけをいただいたことがきっかけです。この産学協同プロジェクトの考え方に共感し、学生さんと一緒にデザインに関する新しいコミュニティを構築して何かに取り組んでみたいと考えました。

制服デザインプロジェクトよりも商業的な面が大きいと思うのですが、今回なぜグッズを制作・販売しようと思ったのですか?

山口さん:セレオやnonowaといった商業施設を持っているという私たち JR中央線コミュニティデザインの強みと、学生さんが持っているデザインの強みを活かすためには、デザインをグッズというツールにのせて形あるものとして表現すると、リアルでもオンラインでも一般のお客さまに興味関心を持っていただきやすいかなと思いました。今回のプロジェクトはMAU bdpからスタートしているので、もともとの目的は新しいビジネスを一緒に作っていくこと。それを、JR中央線コミュニティデザインが持っている商業施設を活用したビジネスモデルに落とし込んでいったため、制服プロジェクトよりも商業的な面が大きいというのがあります。

一方で、共通しているのは“地域の方に愛されるものを”という想いです。制服デザインプロジェクトは地域性を大切にするため、中央線沿線にキャンパスがあるムサビの学生さんに“地域の方に愛される”制服のデザインにご協力いただきました。今回のプロジェクトも“地域の方に愛される”ことを目指していくために、学生さんとお互いの強みを持ち寄って何か新しいビジネスに取り組めないかと考えました。

C&Mのワークショップの様子

―第1弾と第2弾の内容の変更には何か理由があるのですか?

山口さん:第1弾では特定のテーマを設けず、学生さんの作風を全面に打ち出しました。第2弾は、テーマに対して学生さんがどのように表現してくれるのか期待を込めつつ、鉄道を好きなお客さまも非常に多いことから、我々JRグループの強みである「鉄道」をテーマにデザインしていただきました。

別の展開をしたのは、お客さまの反応の違いを検証してみたいという狙いもありました。グッズという形に落とし込んでいったときに、ムサビの学生さんが作りたいものや普段制作している自分の作風を押し出せるものを販売した場合と、あるテーマを与えてそれに沿って作ってもらう場合とでは、学生さんやそれを買ってくれるお客さまの反応はどう異なるのだろうという思いからです。

第1弾では、学生6人のグッズをセレオ八王子に設けたギャラリースペースで展示。

また、学生さんと地域の企業やグッズ制作企業とのコラボができないかという、今後の活動の展開も視野に入れた実験でもありました。これまでにないビジネスモデルを作りたいので、今はまだいろんなことにチャレンジして反応を見てみようという段階なんですね。なので、成功するまで同じことを繰り返すというよりは、ちょっとずつ方法を変えてみて、どういうやり方がいいのかを模索しています。

JR中央線コミュニティデザインは自分たちの売り場を持っていて、学生さんにはデザインがあります。場所とデザインがあったら普段と違うプロモーションができるかもしれないという思いがありました。それらを地域の方々につなげていくような在り方を視野に入れた形です。

―実験的に行ったことで、感じた変化や反響はありましたか?

山口さん:第2弾の展示会場は国分寺ということもあり、ほとんどのお客さまが武蔵野美術大学を知っていましたし、なかには卒業生の方もいらっしゃいました。私は売り場で接客をしたのですが、C&Mの取り組み自体に対しても、デザインに対しても、興味関心を持っていただける方が八王子よりも多かったなと感じましたね。

また、空間づくりも第1弾から大きく変更しました。第1弾はショップスペースではない共用スペースに展示をしましたが、第2弾はショップのスペースを利用するとともに、参加学生の個展ブースを設けたんです。お客さまがそれらの作品を見て、学生さんがどういう作風なのかを知るきっかけになったと思います。

第2弾はセレオ国分寺で展示。新たに設けたメンバーの個展ブースも好評だった。
第2弾の展示会場のサイネージで流したプロモーション映像。

村松美桜さん(以下「村松さん」):それから、やはりテーマの有無も大きかったと思いま す。第1弾のときは学生さんの作風を全面に出したので、デザインが好きな方に興味を持ってもらえました。第2弾ではそれらの方に加え、鉄道が好きな方やお子さんにも興味を持っていただけて。イベントなどでチラシを配ったときに「鉄道グッズかわいいね」と言っていただくこともありましたし、お子さんサイズのグッズの売れ行きも好調でした。テーマは絞った一方で、興味を持ってもらえるお客さまの年齢層の幅は広がったのかなと思います。

山口さん:鉄道グッズのときは、お客さまにこういう意図ですよと説明すると「あ、なる ほど!」という反応が多かった印象もあります。

―確かに、電車が好きな人がデザインをするのではなく、電車に特別詳しくない学生が作るとまた視点が違うというか、新しいものが見えてきたのはこのプロジェクトの強みだったと思います。

山口さん:今回のプロジェクトを通して、学生さんに社内からでは気付きにくい要素や魅力を発見していただきました。今後の企業コラボということを視野に入れたときに、ほかの企業さんにも「学生さんに新しい発見をしてもらえるなら、グッズを作るのも面白いかも」と思ってもらえるような、期待値が上がる良い事例になったと思います。

第2弾で制作された鉄道グッズ。

―学生と一緒にプロジェクトを行ってみてよかったこと、大変だったことはありますか?

山口さん:良かったこととしては、先程と重複しますが、第1弾を踏まえて第2弾に活かすことができた点です。具体的には個展ブースを設けたことですかね。また、商業目線で言うと、第1弾とくらべると第2弾はお客さまの滞在時間がかなり伸びたと感じました。

大変だったことは、第2弾の鉄道グッズの許諾申請の関係ですね。私たちも初めてだったので、申請方法や許諾にどれくらいの期間が必要なのかがわからなくて。メンバー間で「ちょっと前倒しにしないと間に合わないんじゃないか」などと相談しながら進め、最終的になんとか間に合いました。メンバー全員で協力できたからこそ、期日内にすべてを整えることができたのだと思います。

村松さん:学生さんが入って大変だったところは特になくて。JRだけでは考えられないようなグッズを試行錯誤しながらすごく短期間で作っていただいて、お客さまに届けられたことが本当に良かったなと思います。

山口さん:堀さんは第2弾に参加されましたが、当初の予定よりもデザインする期間が短くなってしまったことは大丈夫でしたか? ちょっと心配で聞いてしまうんですけど…(笑)。

一同:(笑)。

―そうですね…(笑)。やっぱり学生なので、元々のスケジュールから許諾の関係で早まったのは、ほかの課題との兼ね合いをうまく調整するのが大変ではありました。でも、コロナ禍でオンラインの環境が整ったからこそ、最初の顔合わせ以降はZoomを使って進められたところはとてもありがたかったです。

もちろん、対面で顔を合わせるのも大事ですが、オンラインでも学生と企業さんがコラボできるというのは今っぽいなと思いましたし、移動に時間を費やさずに済むので効率的に進められました。なので、大変なことはそんなになかったです。

初回のみ対面で会議を行い、以降はオンラインで進められた。

山口さん:確かに今っぽいといえばそうですね。参加者全員のスケジュールを合わせるのは対面ならとても大変ですが、オンラインだったら合間を縫ってできるし、参加できなかったらレコーディングしていたデータを見といてね、みたいな。大人数だったので、そういう意味ではすごく進めやすかったですね。

―私は課外活動によく参加するのですが、参加することに躊躇する学生は、スケジュール面のほかに対面で喋りにくいという理由もあると思うんです。だからこそ、こういうプロジェクトもあることを学生にもっともっと知ってもらいたいなと思いました。

山口さん:なるほど。心理的障壁というハードルを下げ、物理的な制約を緩和できたという。今後プロジェクトに参加したいと思っている学生には有益な情報ですよね。

―では最後の質問になりますが、C&Mのこれからについて考えていることをお聞かせください。

山口さん:可能な限り続けていきたいと考えていて、実は今、第3弾の準備を進めています。そのなかで、商業施設の売り場からオンデマンド上(今回はSUZURI)へ誘導すること への難しさを感じているところがあって。展示会場は私たちの会社が管理している駅ビルが中心になりますが、もっといろんなマーケットでC&Mのことを知ってもらいたいんで す。そのための策を練るとともに、学生さんがデザインやグッズに込めた想いや意図をお客さまに知ってもらうところも含め、試行錯誤しながら取り組んでいきたいと考えています。

村松さん:加えて、中央線や南武線沿線などで開催されているさまざまなイベントでC&Mの宣伝をしていきたいと思っています。そのなかでどんな層に刺さるのかを検証していけたら。

山口さん:C&Mの面白さは、デザインやグッズの背景にはその作者の思いやストーリーがあることです。作者一人一人にフォーカスした今回のような展示方法での販売は、これまでの駅ビルにはない新たな魅力となり、さらには強みにもなったと思います。作者自身のことや、作品に込めた思い。そこに興味を持ってもらい、さらにはファンになってもらうために、どうやって丁寧にメッセージを伝えていくのかというコミュニケーションの部分にも注力していきたいですね。

今回のプロジェクトに参加してみて

プロジェクト参加のきっかけは、このmauleafです。私はmauleafで制服デザインプロジェクトに関するインタビューをさせていただきました。そこで、プロジェクトに参加してみたいと思うようになりました。そんななかC&Mの話を聞き、ぜひ参加したいと思い応募しました。プロジェクトに参加することは未だに勇気が要りますが、自分のデザインしたグッズがショップに展示され、いろんな人に見てもらえるということはなかなか出来ない経験です。実際に『鉄道』というテーマでデザインするのは難しく、許諾申請などの壁を乗り越えてようやく完成したときにはホッとしました。インタビューのなかでもお話がありましたが、こうした企業と学生がコラボすることで生まれる新たなビジネスモデルは、企業さんとしても新たな発見がありますし、学生にとっても今後に活かせる良い経験になると思います。こうしたプロジェクトがたくさんの学生の活躍の場になれば良いなと思いました。

「SUZURI」内のストアはこちら https://suzuri.jp/C_and_M


編集・取材・執筆:視覚伝達デザイン2年 堀稚菜

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