2021-04-20

市ヶ谷キャンパスから溢れ出す創造力

 

 造形構想研究科造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコース1期生の目前に控えた、2021年3月21日。市ヶ谷キャンパスでの大学院開設から2年間を振り返り、もっと市ヶ谷キャンパスを盛り上げていくためのトークイベントがYouTube配信された。

 鷹の台キャンパスを活動拠点とする学生が多い中、市ヶ谷キャンパスはどんなキャンパスなのか、どんな活動がされているのかよく知らないムサビ生も多いのではないか。

 今回行われたトークイベントでは、新たに時代を切り開いていく場として市ヶ谷キャンパスはスタートされていたんだ!こんなにもエネルギーに満ち溢れた場だったんだ!というような、まだまだ知らない市ヶ谷キャンパス、そしてその溢れ出す創造力が垣間見えるものとなっている。

 盛りだくさんな内容を3時間半強の長丁場の中、熱量を絶やさずに発信している。

 トークイベントでは、教授目線でのお話や市ヶ谷キャンパスに通う大学院生目線、これから市ヶ谷キャンパスで学ぶ学部生目線など色々な目線の話が聞けて面白かった。その中でも筆者が特に印象的だったトークを掘り下げていく。

時代の先へ


大学院創設の経緯とこれまでの2年間を振り返る

長澤忠徳 学長、造形構想学部 主任教授/ 井口教授、造形構想学部 教授・学部長/ 篠原教授 (※2021年3月時点)

 時代とともに、デザインの意味するところが拡大すると同時に質的にも変化してきた。ムサビではこれまでの90年間、アートとデザインの11学科が一つの造形学部にひしめき合い、学校の組織という中では、新しい世の中の動きに柔軟に対応しきれないところがあったと言う。新しい時代を切り開いて行くためには、世の中の動きに追いつこうとする、合わせるというよりも世の中の先に行かなければならない。そうした強い意志のもと、新しい発想での大学院と、従来のルールを越え、いい意味でこれまでの伝統を生かしながら革新性を持たせた学部を創設。社会的インパクトを与えるためにも都心キャンパスでスタートさせた。

 新大学院、クリエイティブリーダーシップコースの初年度は社会人の受験生がとても多かった。構想の理解者は、社会の動きをよく見ているビジネスに関わる人だったのだと気付かされたと言う。新しい動きに対して、最初は学内でもなかなか理解されなかったのだそう。その中でも、新たな美術大学としての進むべき道を切り開いていくために勇気を出して切ったスタートは、1期生の卒業を迎え、ようやく社会に飛び出そうとしているように見えた。

 トークセッションは「今まで美大との関わりがなく、自分から身を投じるとも思ってなかった人たちにやっと声が届き始めた。時代が変わると同時に美大も変わってきている。そういう実体を持った改革をしていくことを目標に活動してきた2年間だった」とまとめられた。

2年間の軌跡


1期生によるトーク

造形構想研究科構想専攻 クリエイティブリーダーシップコース 2年 1期生 4名

 

 登壇者の話から、クリエイティブリーダーシップコースの多様性や、それぞれバックグラウンドが違い、実社会でデザインの必要性を感じるなど明確な目標を持ち、学んできた様子を伺えた。

 デザインやアートの実態を掴めたと話すのは、社会人でもある石黒さん。

「デザインを実践する人を交えて議論し、学ぶことで、デザインやアートとは何だろうかということを身をもって体験した。そこから見えてきたデザインやアートというのは、パッションやプライド、とことん追求することだったり、細部にこだわり続けること、突き詰める姿勢が重要だということを身にしみて感じた」

 教授も学生も、講義時間の90分を超えてもとことん議論して考え抜く。徹底して追求した結果、レビューで覆ることもある。その繰り返し。それこそがデザインなんだと気付いたという。それは時間も体力も使うことだけれど、追求したからこそ地力がついたと語った。

 靏元さんは「1期生や2期生を見ていても、世の中でやっていきたいプロジェクトやすでに走り始めている活動が市ヶ谷キャンパスから溢れ出してしまうくらいあり、例えば一階の無印良品とやっているOpen Marketや学外向けのイベントなどで社会との接点は増え続けているのだそう。そういうところから、学生と大学という関係性にとどまらない関わり方も増えてきて、より思ったことがどんどん社会に飛び出ていく環境作りを卒業後もしていけたら」と話した。

年齢も経験もさまざまな1期生の生の声から、お互いを尊重し、助け合い、切磋琢磨しながら学んできた2年間を感じ取ることができた。

Open Marketは社会実証できる場所


Open Marketの野望

造形構想学部 教授/ 若杉 浩一教授、MUJIcom Open Market Sunniy’s coffee & music/ 草薙 多美

 

 市ヶ谷キャンパスのMUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店に入っているOpen Marketは、ムサビと社会の新しい接点としての役割を持つと言う。デザインと社会との繋がりを通した新しい学びの場を生み出したい、という考えから生まれた。その学びが循環する社会として地域の拡大に繋がっていく場こそがOpen Marketであり、場所というより概念のことを指しているのがOpen Marketだということがわかってきた。

 Open Marketは知っている人は知っているけれど、まだまだ何ができるところなのか知らない人も多い。

「学生のうちは学んだことを社会実証していける場を得ることはなかなか大変なことだけれど、失敗を恐れず、やりたい!という思いと行動力があれば、リアリティのある社会の中で学んでいける場であり、学生にとっては貴重な体験でありとても大切なこと」と、進行役の角さんが登壇者お二人の話をまとめた。

 トークセッション 造形構想学部の紹介(今回のレポートでは省略)でも、学生の市ヶ谷キャンパスでの活動として、Open Marketを活用し学食を提供できないかという案も飛び出し、学生が考え作っていく場になればと、これからのOpen Marketに期待が寄せられた。

まだまだ発展途上、市ヶ谷キャンパスの魅力


春以降の市ヶ谷キャンパスでの展望

クリエイティブイノベーション学科 2年 /浦山 紗理奈、武居 杏、クリエイティブリーダーシップコース 1年 /栗野 峻輔、嶋田 綾

造形構想学部 造形構想研究科 /山崎 和彦教授、長谷川 敦士教授

 このトークセッションでは、市ヶ谷キャンパスに通う大学院生から、これから市ヶ谷キャンパスに移る学部生に向けてアドバイスがあった。(* 学部生は1・2年次は鷹の台キャンパス、3・4年次は市ヶ谷キャンパスで学びます)

「市ヶ谷の魅力の一つとして、色んな経験をしてきた人たちが大勢いる中で、本来交わらなかったような人と同じ目線でプロジェクトに向かい、一緒に活動していくことができる。市ヶ谷キャンパスは、まだまだ発展途上だからこそいろんな可能性がある場所。まだないサークル活動なども、いろんな人を巻き込んで、鷹の台からも”市ヶ谷がなんか面白いことやっているみたいだからちょっと行ってみよう”と引きずり込んでやるくらいのこともできる。また、市ヶ谷という立地を生かした活動もできていったら面白い」

 アドバイスを受けた学部生は、「人に多様性があるからこそ、社会経験のない学生が社会の視点を持った方々のプロジェクトを目の当たりにできることはすごくいい経験になるはず。クリエイティブイノベーション学科が造形学部に近づいていくというよりも、むしろ市ヶ谷という場所で、造形学部の人たちを近づけたり、他の大学の人たちと関わったり、市ヶ谷に引き付けることもできたら」と春からの市ヶ谷キャンパスの展望を語った。

 トークセッションから、市ヶ谷キャンパスで生まれるクリエイティブを垣間見た。学部生の武居さんは、Open Marketを活用し彼女が作る漫画を広めていく活動をしている。セッションの中で、漫画という個人制作物で周りを巻き込んでいくにはどうしたらいいかという質問があった。そのことについて大学院生が意見を語る場面では、こういう風にして何かやりたいことや、やりたいことへの疑問点を誰か別の人と共有することで、こうしたら面白いんじゃないかとアイディアが広がり、色んな人と交わり、コラボレーションしたり、活動したりするきっかけになるんだと感じ取ることができた。

 市ヶ谷キャンパスの良さは、学生数が多くないからこそ顔見知りになりやすく、各々の活動を知ることができるところ。そこから学生同士がつながり、「一緒にこれやろうよ」と輪が広がっていくのだそうだ。また、アドバイスをもらえる相手が先生だけでなく大学院生の方だったりと幅広く、挑戦しやすい環境が市ヶ谷にはある。市ヶ谷キャンパスの魅力がたくさん伝わってくるセッションとなった。

 トークイベントの中で、特に印象的に見えてきたのは市ヶ谷キャンパスから溢れ出る熱量だった。春からもっと盛り上がっていくであろう市ヶ谷キャンパスと、学生たちによる活動に今後も注目していきたいと思う。今回の配信は、市ヶ谷からもっともっとアートやデザインを発信していく大きな一歩であり、その歩みはもう進み始めている。

 また、今回のトークイベントでは、クリエイティブリーダーシップコース、クリエイティブイノベーション学科の学生だけではなく、筆者のような他学科の学生にもためになる話が多かった。特に筆者が感じたのは、人と繋がっていき、色んな人と関わっていくことは少人数の集まりでないとできないわけではなく、むしろたくさんの学生がいるからこそたくさんの意見がもらえ、コラボレーションできる機会も多いということ。市ヶ谷キャンパスだから、鷹の台キャンパスだからということではなく、大学をどう活用していくかは自分自身の思いや行動なのだと改めて気づくことができた。

 ふたつのキャンパスが、創造のパワーが溢れ出す場所としてもっと発展していければと感じたイベントとなった。

 このトークイベントはYou Tubeでアーカイブ配信されているため、是非視聴していただきたい。

トークイベントアーカイブ

Creative Leadership × Innovation 2021  ついに、はじまった物語〜ムサビ新⼤学院新学科に⾶び込んだ1期⽣&教授陣によるトークイベント〜


 取材・執筆:工芸工業デザイン学科 3年 武藤 結実

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