学生の「小さなやりたい」を形に -武蔵野美術大学と無印良品により共創されたOpen Marketとは?-
市ヶ谷キャンパスの1階、MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店に併設されている「Open Market」。実はここ、コーヒースタンドとしてハンドドリップコーヒーを提供するだけでなく、みんなの「小さなやりたい」を形にする場にもなっているんです。そのちょっと変わったスタイルについて、お店に立つバリスタの草薙多美さんにお話をきいてみました。
“みんなのやりたいことを形にする”場、「Open Market」
――よろしくお願いします。
草薙多美さん(以下「草薙」):こちらこそ。あまり緊張せず、私も緊張しちゃう。
――そうですよね。
草薙:いえいえいえ、大丈夫ですよ。
――Open Marketができて、どのくらい経つんですか?
草薙:2019年の7月にオープンしまして、今年の夏で2年目を迎えます。
――最近なんですね。多美さんの役割というか、肩書きはバリスタなんでしょうか?
草薙:私は普段、コーヒーと音楽で空間を創る「Sunniy’s coffee & music」というユニットで、バリスタとして活動しています。Open Marketでもメインの役割はバリスタ。カウンターに立ち、ハンドドリップのコーヒーを淹れてお客さんに提供しています。
でもそれ以外に、実は“ファシリテーター”という肩書きがついていたりします。Open Marketはコーヒースタンドであると同時に、ここを訪れる人のやりたいことややれることを形にできる場でもあるんです。
「このボードも、誰かとコラボして作れたら楽しいですよね」と多美さん。新しくボード作ってくれるムサビ生を探しているようです。
――実現したことがボードに貼ってありますが、企画を練ったり、どういうスケジュールでやろうかみたいなところも多美さんが相談しているんですか?
草薙:はい、そうです。今までに関しては、むしろご相談っていう形でラフに訪れる方が多かったですね。例えば、秋田県湯沢市の地域協力隊をやっているムサビの特別講師の方から、湯沢をPRしたいと相談を受けたりしました。持ち込み企画がすごい多いんですよね。
――単発のイベントとしてですか?
草薙:はい。「やりたいこと」って書いてあるんですけど、もともとこのボードは私のToDoリストのようなものとしてつくったんです。「スペシャルなコーヒーセミナーをやる」とか、やることを忘れないように書いて貼って。それでいろいろ貼っていったら、いつのまにかみんなのWISHリストになったんです。ここに貼ったら叶うらしいよ、みたいな。今は、ムサビのクリエイティブリーダーシップコース(大学院)の学生や、学部生がこれからやるイベントのことが貼ってあります。
2021年3月31日(水)〜4月2日(金)、MUJIcom前のテラスで開催された「Cafe Banana Muffin」。クリエイティブイノベーション学科2年の田辺麻鈴さん、新名さくらさんの2人組ユニット“Banana Muffin”が多美さんの協力のもと企画した期間限定カフェ。“やってみたいをカタチにする”がユニットのモットー。当日はドリンクを片手に、音楽、アート、映像などを織り交ぜ、賑わいを見せました。
草薙:実際に形にできたら、「Open Marketで実現したことはこちら!」のところに紙を移動させています。
――ジャンルがすごく幅広いですね。
草薙:そうなんですよ、本当に多彩で。アートやデザインに限りますとかではなく、ここから何が生まれるかというのを私は大切にしたくて。幅広い「小さなやりたい」をやってみようよっていうと、やっぱりジャンルが広がりますよね。
――クリエイティブイノベーション学科ではない学生も、ここに来たら実現できたりするんですか?
草薙:もちろんです。特にコロナ前は、他大学の学生も多く来ていたんですよ。法政大学の学生が「小商をやりたいと思ってるんですけど」って相談に来たりしました。どうやってここを知ったの?と聞いたら、インスタグラムで小商とかコーヒーで検索したら出てきましたと言われました。そういうこともあったりしたので、他大学の方も全然アリだなって。そこからムサビに繋がったりしたらいいなって思っています。たまたま来たムサビ生と、たまたま来た他大学の方が話して、別な何かが生まれたり、一緒に色々考えたり。いろいろなご縁を繋いでる場所にもなっていると、この2年やってきて肌で感じています。
――なんかすごい。わかってきました、と同時に、思ってたのと良い意味で違いますね。
草薙:「Open Marketってなにをやってるとこなんだろう?」と思っている人が多いと思います。何をしてるか分からないから、距離ができる。それはむしろこっち側がよく察していて。でも距離ができているものを強引に近づけるのも違うので、やっぱりやり続けるしかないんですよね。いつかのタイミングで何か伝わるんじゃないかと、淡い期待は持ちながらやり続けて、少しでも「わかった」とか、少しでも「理解が深まった」となったら、今はそれだけで十分です。
草薙多美さんとムサビの出会い、Open Marketのはじまり
――Open Marketはどういう経緯で作られたんですか?
草薙:実は私自身、もともとムサビとの関わりは無くて。これまで働いてきたのは福祉と飲食業界で、アートも美術も全く接点がありませんでした。クリエイティブイノベーション学科の若杉浩一教授が以前在籍されていた会社に、福利厚生の一環でコーヒーを淹れにいくっていう活動をしていまして、そこでご縁が生まれて。若杉先生に「多美ちゃん、365日コーヒーを淹れられる場所ができたよ」と最初に声をかけてもらったんです。なので、コーヒーできる場所ができたんだ、できるんだっていう感じだったんですね。
Open Market自体ができた経緯としては、良品計画さんとムサビが学びと小売の流通を掛け合わせて、今までにないものを社会に出すための共創スタジオをまず作りたいと。そういう構想の中で大学でも企業でもない、余白のある場所を大学として作りたいという想いがあって、この場所が生まれたと聞いています。なので、大学教職員でもなく、無印のスタッフでもない私がムサビから委託を受けて運営しています。
市ヶ谷キャンパスの学生が今抱えている最大の悩みとは? Open Marketに新たなプロジェクトが始動!
――ボードには「現在はSunniy’s coffee & musicがメインで運営しています」という書き方をされていますが、日によって運営する人が変わったりもするんですか?
草薙:実はですね、今まさに変革の時期でして。Sunniy’s coffee & musicがここからいなくなることはないと思うんですけど、Open Marketの運営自体を学生さんに中心になってやっていただこうと、動き出そうとしているところなんです。この4月からクリエイティブイノベーション学科の3年生も市ヶ谷キャンパスに移ってくるわけなんですけど、ここの学生が一番困るのがお昼ごはんなんです。学食がなく、ランチを食べる場所に困っているので、学部生と一緒に、学部生向けの「学食プロジェクト」を動かそうと思っています。
このプロジェクトはお金のやりくりもちょっと面白くて、ふつうは働いた分の賃金を雇用主からもらうじゃないですか。それを、自分たちの食い扶持は自分たちで稼いでみようという。今、興味を持っている学部生2人を巻き込んでお弁当を作り、その売り上げを元手に人件費にするのか、仕入れ代にするのか、そこのデザインをやろうとしています。それが定着すると何が起こるかというと、Sunniy’s coffee & musicじゃない人が運営していくことになっていく可能性があるんですよね。やっぱり大学の一角にあるので、学生さんが運営できるようになったらとても面白いなって。社会に出る前に、学校の教育ではないリアルな場で、お金の流通を含めて学ぶことができる。いわゆる“第3の場”っていうところに、Open Marketをようやく持っていけるのではないかと思っています。
――実践以上ですね。
草薙:そうですね。でもまさにOpen Marketは社会実証の場であり、プロトタイピングの場所なので。大学の中だと、規約やルール上、飲食のプロジェクトをやるのがなかなか難しい。無印さんも同じです。となると、Open Marketが一番やりやすいんです。このプロジェクトがきっかけで、食に限らずいろんなジャンルの、ご自身のやりたいこととOpen Marketが何か紐付くようなきっかけになったらいいなと思うので、興味関心を持ってもらえる方が増えると嬉しいです。
Open Marketに来たことのないそこのあなたへ
――最後に、Open Marketに来たことのない方に向けてのメッセージをお願いします。
草薙:Open Marketは全容がかなり分かりづらいんですけど(笑)、まずは気軽にコーヒーを飲んで、気軽にお話ができたら。カフェに行く感覚で来ていただけると私も嬉しいですし、もし鷹の台キャンパスから来てくださるようでしたら、鷹の台の様子もぜひ教えてほしいなって思います。もれなく市ヶ谷キャンパスの様子もお伝えしますので、情報交換できたらいいな。それで、鷹の台から市ヶ谷に足を運びたくなる方が増えてくれたら嬉しいですね。楽しいと思いますよ、きっと。なので、気軽に気さくにお待ちしています。
Profile
草薙多美(くさなぎ・たみ)
Sunniy’s coffee & music代表。珈琲で、人と人が繋がり楽しめる空間を創る活動をしている。
2019年7月より、MUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス内のOpenMarketにあるカウンターでハンドドリップコーヒーを淹れている。武蔵野美術大学の学生と、社会へさまざまな発信をし、大学、企業、個人の共創を行っていく学び舎をファシリテートする役割も担っている。
Information
OpenMarket
■営業時間:11:00〜19:00(水・木・金のみ営業)
■住所:〒162-0843 東京都新宿区市谷田町1-4 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス1F MUJI com 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス内
■電話:03-5206-3390
■アクセス:JR/東京メトロ有楽町線・南北線/都営地下鉄新宿線「市ヶ谷」駅より徒歩約3分
取材・執筆・編集:芸術文化学科2年 石崎 美智